TTAGGG

キリンジ drifter



d0103236_03101317.jpg

ずっと書こうと思っている話がある。


 それをいつ出すべきか、躊躇っている自分がいる。それ自体に後ろめたい気持ちがあるわけではなく、さりとて自慢げに話せるものでもない。

 ただ、どうしても出せば気持ちは下落する。ならば、調子のいい今のうちに噴出するまま書くのがいいという気もする。どちらにしろ、そのことを思い出すだけで「鬱が夜更けに目覚めて、けだもののように襲いかか」ってくるのだから。
 一度深呼吸したらいつかは吐き出さねばならないように、溜め込んだ感情もどこかで抜かなければ、どうにかなってしまうだろう。

 
 それは、好きだった女の子の話。
 音楽の趣味が似通っていて、それほど可愛いわけではないけれど、どこか愛嬌のある顔立ちをした女の子のこと。

 破滅的なほどのタナトスを内に秘め、そのせいで心を病んでしまったその子のことが、とても好きだったことに気づいたのは、彼女と別れた後だった。

 別れた、と書いたが特に男女の付き合いがあったわけではない。というより、実際に会ったのは数えるほどしかない。肌を重ねたのは、初めて会ったその日だけで、その後数回の逢瀬はただドライブしながらたわいもない会話をしたり、カラオケに行ったくらいのものだった。

 感情を言語化するのはとてもやっかいだ。1と2の間の1.0269のようにデジタルで表現できるようなものではないからだ。そのときに感じた思いが好きだったのか、それとも悲しいなのか、どのあたりに位置するのかすら明確に書くことが出来ない。もうすでに十数年前のことのなのに。どうやら、これ以上のことをまだ書けそうにない。
 ただ、数少ない経験の中でも一番大好きだったとはっきりいえるのは彼女だけだし、別れを告げられた後で慟哭したのもその時が最初で最後だった。
 はっきり自覚できるほど人生の転換点をそこで迎え、鬱も最高潮に達したが、そのことで彼女を恨む気持ちなど全くない。

 今はもう出会う術もない女の子だが、また自分の前に姿を現したら、きっとまた好きになるだろうし、それが自己崩壊への道であっても迷わず一緒に堕ちる覚悟すらある。

 彼女が言った。
 「ムーンリバーを渡るようなステップで、っていい歌詞だよね」

 踏み越えていける相手は僕ではなかったけれど、彼女が好きだったその曲を聴くたびに、そのことを思い出す。そして、僕を通り過ぎていった彼女のささやかな幸せを願わずにはいられない。世界中の全ての人が平和に暮らせるよう祈るだけの器量を持ち合わせてはいないが、せめて出会った人の平安を望むくらいは、僕にも許されていいと思う。





[PR]
by telomerettaggg | 2014-03-04 03:37 | E PZ 16-50mm F3.5-5.