あなたのそばにいるよ
ボクはその時震えが止まらなかった。
そんなに長い間生きてきたわけではないけど、あまり楽しいこともなかったように思う。
生まれてからすぐに捨てられて、追われて、結局ああやって雨が打ちつける路地裏で息も止まろうとしていたのだから。
ボクの毛はところどころ、いや大部分が抜け落ち、目は病気なのかヤニがたまってほとんど見えなくなっていた。
6月の雨とはいえ降りつける雨はボクの体温を容赦なく奪い取り、後ほんの少しで死んでしまうのは目に見えていた。
そこにあの人がやってきたんだ。
薄汚くて息も絶え絶えだったボクをあの人はやさしく抱きかかえて家に連れ帰ってくれた。
仕事も休んで看病してくれたおかげで、ボクの体はすっかり元通り。
名前もなかったボクに「蒼」とつけてくれた。
ボクの毛皮はキジトラなのになんで「あお」なのって不思議に思っていたらあの人は
「だってあそこで倒れてたキミはとっても蒼白い体をしていたのよ」と話してくれたんだ。
あなたはきっと判っていないと思うけれど、ボクにはちゃんとあなたの話す言葉が判るんだよ。
そう言いたいけれど人の言葉は話せないから、代わりにあなたの掌の上にボクの小さな前肢をのせてみる。
あなたはいつだってボクを束縛したりはしない。
いつだって出て行けるように家の扉は少し開けてある。
その気遣いがとても嬉しいけれど、ボクはずっとあなたのそばにいるよ。
ひなたぼっこしながらあなたの帰りを今日も待っているよ。
by telomerettaggg
| 2006-12-12 23:31
| COLOR-SKOPAR 35/2.5