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彼の願いをかなえる方法

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LeicaM6+CANON LENS 35mm f2.0 T-MAX400 tokyo



 「どうしてもお願いしたい」

 彼はしきりと額の汗を拭きながら私にそう頭を下げた。
 なにがなんなのかさっぱりわからなかった。目の前に立つ男は30代半ばといったところだろうか、禿げかけた頭を帽子か何かで隠せばもう少し若く見えるかもしれない、などと見たそのときは思ったのだが、まずお願いされる理由がよく判らない。

 あなたならどうだろう?
 日差しのきつい冬の街中を歩いていて、3月に入ったというのになんて暑いんだろう、などと太陽の眩しさに眼を細めながら歩いていた路上で、いきなり見知らぬ男性に願い事をされたとしたら?

 当然、私は無視して通り過ぎようとした。顔に自信があるとは言わないが、私だって女性だ、出かけるときには、知らない人にはついていっちゃいけませんよ、と口を酸っぱくして母親に言われ続けたクチだ。単なるナンパか、そうでなければ路上販売の類であろうと判断して、声を掛けてくる男のほうなど見向きもしない。

 しかし彼は、あの済みませんが、という出だしのあと、
 「〇〇さんですよね?」
 と私の名前を口にした。思わず知り合いだったか?と思いなおし彼の貧相な無精髭の目立つ顔を見てしまったが、覚えは全くない。
 あの、どなたでした?と聞き返したが、彼は、いえ、お会いするのはこれが初めてですから、、、と言葉を濁す。
 少し怖くなって、いっそ走り出してこの場から逃げ出そうかとも思ったけれど、
 「お願いがあるんです、ほんの少しの時間だけでいいので、そこの」
 と交差点の向こう側にある建物の角を指し示し、
 「そこに立っていていただけないでしょうか」

 不思議なお願いをされてしまったのだ。

 そう、普通ならそんな変なお願い、聞く道理がない。
 それどころかますます不気味に感じて悲鳴のひとつでもあげながら助けを求めるくらいのことを、たいていの女性ならする、とは思う。そういうものだろう。

 ただ、私は普通ではなかった。普通でありたいとは思うのだが、それ以上に好奇心の強さに普通であることからますます遠ざかってしまうのだ。

 いや、でもそんなお願いされても困ります、と何度も断りながら、話し次第によっては受けても面白そうだ、と思い始めていた。
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by telomerettaggg | 2007-03-07 11:36 | CANON LENS 35/2.0