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待ち続ける人

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LeicaM6+CANON LENS 35mm f2.0 T-MAX400 tokyo


 卑屈だ。

 我ながら、自分の性格をそう感じてしまう。
 デパートの屋上に立ちながら、あたりを見回して、自分の足元を眺める。
 平日ながらも、まばらではあるが親子連れが陽気に誘われるかのように歩き回っている。

 そう、ボクは卑屈だ。
 でなければ、こんなところに男一人でやってきて、あまつさえ誰かも知らない男の言うなりになって、ただ立ち尽くしているはずがない。
 会社勤めしているときもそうだった。
 おい、あれやってくれ。・・・すみません、わかりました・・・
 何でこんな簡単なことも出来ないんだ?・・・すみません・・・
 今月いっぱいでもう君は来なくていいから。・・・はい、そうですか、、、すみません・・・

 で、リストラされてしまったのだから、これを卑屈な性格と言わずにどう処理したらいいのだろう。


 手すりにつかまって向かいにあるビルに目をやる。
 ガラス張りの建物の窓全体に太陽が反射して、眩しげにしている母親と保育園に行くか行かないかくらいの女の子。せめて今だけは過分なく与えられたその安らぎを楽しみ給え。人生は厳しくつらいことばかりなのだから。
 そう、心の中で呟くと、腕時計の針が午後三時をまわっていることを確認して、
 やっぱり誰も現れなかったな、と思いながら地上へと繋がるエレベータへ向かう。


 その貧相な風体と毛髪、しかしどことなく威厳のある男は、路上を所在無さげに歩くボクになぜ目をつけたのか判らないが、目が合うなり一直線に向かってきた。
 お兄さん、暇そうだね、わりのいいバイトがあるんだけど、やらない?

 なんだこいつは、と思いつつも口から出てきたのは例のごとく、
 いえ、急いでいるんで、すみません、という言葉だった。

 急いでいるって、お兄さんさっきからこの辺をうろうろしてるだけじゃない。
 ちょっとさ、ほんの数時間だけでいいからさ、人を待っていてほしいのよ。

 それで、バイト料として、ほんの数時間拘束されるだけにしては破格の値段を口にした。
 ボクだって、今は失業保険があるとはいえ、いつまでも預金とそればかりをあてにはしていられない、目先の金銭に惑わされて、つい甘言(というのだろうか、この場合)に乗ってしまった。

 男の依頼はこうだ。自分はすぐそばのデパートの屋上で人と合う約束をしているのだが、急用が出来てしまいしばらくこの場を離れなければならなくなった。しかし、先方と連絡が取れず、キャンセルも出来ないので、代理になる者を探していたところだったという。
 
 いかにも怪しげな理由ではあった。
 だって、このあたりを徘徊していたボクに目をつける余裕があるのなら、会社の人間でもなんでも呼び出せばいいことである。わざわざ、高額な謝礼を払って、見知らぬ人に(つまり、ボクのことだ)見知らぬ人に会ってくれ(つまり、取引先だかなにかの人のことだ)と見知らぬ人(つまり、目の前にいるこの男のことだ)から頼まれて、それを引き受ける人がそうそういるとは思えない。

 それでも、ボクは引き受けてしまった。
 男はまともな仕事をしているとは思えない、その貧相な不精髭を触りながら、これでも、人を見る目はあるんでね、と笑った。
 一応、こっちからもなんとか連絡を取るようにいろいろ試してみるから、もしかしたらその人は来ないかもしれない、午後3時まで待って現れないようなら、帰ってくれて構わないから、と約束の謝礼をボクに渡すと、タクシーを呼び止めて、乗り込んでしまった。

 おいおい、お金を渡してしまったら、ポクがこのままどこかへいなくなっても判らないじゃないか、そう考えたのが顔に出たのか、男は、だから人を見る目はあるって言ったでしょ、というと、運転手に行き先を告げて去っていった。

 うん、彼の人を見る目は確かだ。現にボクはこうやって時間までデパートの屋上で待ち続け、とうとう現れなかった待ち人が誰だったのかと考えながら、男に声をかけられた路上まで、戻ってきてしまったのだから。

 屋上から見えたガラス張りのビルは、角度を下向きに変えた路上でもやはり光を反射して、3月の東京を眩しく遮っている。

 まあ、いい。おもわぬ収入もあったことだし、今日は見つかるあてもない職探しはやめにして、家に帰って少しだけ贅沢なビールでも飲むことにしよう。

 そう思って歩き出したとき、斜め後ろで、もう、結局誰も来なかったじゃない、あの貧相ハゲオヤジめ、、、と小声でののしる女性の声が聞こえ、思わず振り返って、声を掛けてしまった。
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by telomerettaggg | 2007-03-13 23:07 | CANON LENS 35/2.0