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記憶

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kodak ELITE CHROME


 おとうさんとおかあさんに買ってもらった、大事な三輪車があった。

 乗り物が大好きだった私は、いつも悪戯ばかりしていて、停めてあるお父さんの車へ勝手に乗り込んでは、このレバー何かなー?とロックを外して坂道を転げ落ちそうになったこともある。
 そのときはおとうさんにこっぴどく叱られたけど、仕方ないなあ、お前は乗り物が好きだから、といって買ってくれたのが、薄い赤い色の三輪車だった。

 もう嬉しくて、毎日それを乗り回しては、考えられないくらい遠くまで遊びに行って、また叱られたりもしたっけ。でも、それくらい大好きだった。

 
 ある日、私はその三輪車をなくしてしまう。手ぶらで帰ってきた私を見て、お母さんは「三輪車はどこ?」と聞くのだけど、私はどうしても答えられなかった。
 だから、嘘をついた。「知らない人が勝手に持って行ったの、こっちだから」
 そう言って、お母さんを連れ出した。「まだなの?本当にこっちなの?」夕飯の支度前だったに違いないお母さんは、私のことを訝しげに、でもずっとついてきてくれた。
 お母さんは、紺色のスカートに、茶色がかった肌色の半そでシャツの胸のところに、赤い鳥のマークが付いた服を着ていたから、きっと今頃の季節だったのだと思う。

 結局、とんでもなく遠くまで引き回して、もういいから、というお母さんの言葉を聞きながら、それでも、まだこっちなのに・・・と泣きながら渋るのを連れられて、沈みかける太陽を背に家へと帰った。

 本当は、お母さんだって気づいていたに違いない。私が、嘘を付いていたこと。三輪車をなくしてしまったことに。
 そうだったんだろうなあ、と今になって思えばわかる。
 けれど、子供だった私は若くて、元気で、そして愚かで、その場限りの言い逃れしかできていなかったんだなと、若くもなく元気もなく、そして愚かなままの私は思うのだ。

 記憶の中のお母さんとお父さんはとても若くて、いつの間にかそれよりも年上になってしまった自分の事に気づく。


 

 ただひとつ気がかりなこと。あの時、私はなぜ大事な三輪車をなくしてしまったのか?
 
 
 それだけが、どうしても思い出せない。
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by telomerettaggg | 2007-04-24 19:37 | summicron 50/2.0