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EARTH SHAKE

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 前略

 あなたが最期に見た空はこんな蒼さでしたか。
 
 それとも、命を絶とうとしているあなたの目には、そんなどこまでも射抜くような蒼空など全く映ってはいなかったのかもしれませんね。しゃにむに働いているときに夢も見ないで眠るかのように、あなたは全然違う色を眺めながら駆け抜けて行ったのでしょうから。

 どこを、ですか? 

 ビルの壁面を、です。そして、次第に迫るアスファルトの灰黒色を、です。

 
 正直言うと、あなたがそんな大それたことをしでかすとは、全く思っていませんでした。これは誤算でした。最初にその知らせを受けたとき、電話をかけてきた友人が質の悪いいたずらを仕掛けてきたのだろう、と思い込んだくらいなのですから。あなたは深刻な鬱で苦しんでいましたし、周りの知人からは、あなたの様子がかなりおかしい、と聞いてはいました。

 それでもまだ、今は青白く痩せたあなたの笑顔を思い浮かべられるくらい素敵な声を受話器越しに聞きながら、ああ、まだまだ頑張るつもりなんだ、そう安心したのです。それは完全な楽観視だったことに気づかされたわけですが。

 
 ある、遠い梅雨の日のことを思い出します。

 雨に濡れるととたんに体調を崩すと判っているのに、あなたは雨が大好きでしたね。傘を差しかけようとするのも気にせず、買ったばかりの黄色い長靴を履いて、わざと水溜りに飛び込んでみたりして困らせましたよね。覚えていますか?床屋さんに行くのが面倒だからと、額の真ん中で切りそろえたつもりが、逆にぎざぎざになってしまった前髪と、あなたの大きな目が、小柄な体と相まって、まるで子供のように見えました。

 でもそんな、はしゃいだ姿と、屈託のない笑顔を見せるあなたのことが、ボクは心から好きでした。

 
 結局次の日はやっぱり熱が出て、ベッドの中で赤い顔をしながらごめんね~、と謝るあなたと一緒に、窓越しに見た雨上がりの空は、この蒼い、どこまでも広がる空と同じ色でした。


 あなたがいなくなってから、もう20年も経った今、唐突に思い立ってこの手紙を書いてみました。

 あの時、あなたが自由落下しているまさにそのとき、空前絶後の大地震が起きてくれたら、なんてことを考えたりもしたのですよ。そうやってなにもかもまっさかさまになって、あなたの堕ちていく方向が、地面ではなく空になればいいのに、と願ったのです。


 無駄に生きながらえてしまったこと、あなたのことを悲しみながらも、嬉しいことが起これば幸せを感じてしまうことに痛みと泣きひしがれた声をあげたのを覚えています。何度も後を追おうと考えては、止め、また思い返しましたが、やはり出来ませんでした。

 あなたのことを深く想った瞬間、またその次の瞬間、またその次、、、

 心の中で繰り返すことでしか、あなたを生き続けさせることができなかったから。そう、ボクがいなくなれば、あなたと一緒に過ごした日々もまた消え去ってしまいます。それだけはどうしても我慢できなかったのです。


 もう少しだけ、生きていることを許してくれますか?





 あなたのあげる笑い声を胸に抱きながら。





 
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by telomerettaggg | 2007-06-07 00:22 | Planar50/1.4