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Drifter/Cloud rack

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 「雲が流れているね」
 「ああ。煙も流れてるよ」
 寝転がって広げた左手の先にいる彼女が答える。

 「雲は、好き?」
 「どうだろう、よくわからない」
 「煙突の煙は?」
 「見てる分には、好き」
 「そうだね」

 行き先を決めていない旅に出てもう何日経つのだろうか。
 僕も彼女も時計を持っていないので何時なのかさえ判らない。

 どこかへ行きたい、そう言い出したのは彼女のほうだった。
 「いろんなことを放り出して、何も考えずにいたい」
 生活に疲れているわけでもなく、なにかのトラブルに巻き込まれているわけでもない彼女が、そう言い出すのには何かわけがあるのだろうか。
 でも、僕は何の思慮深さもなく答えた。
 「いいね、いこうか」

 さっきからこうして土手に寝転がり、なにが好きで、なにが嫌いかをお互いに言い合っている。
 彼女は言う。
 「煙突の、あの縞模様が嫌い」
 「煙が、消えていくところ、あれが嫌だな」
 「芝生の感触はどう?」
 「悪くないね」
 「うん、嫌いじゃない」

 結局のところ僕らはなにをしたいのか、何も判っていない。
 一日中ぼっーっとして、気が向けばまた車に乗り込んでどこかへ向かう。
 地図さえ積んでいないので、路上にある標識でここがどこなのか、なんとなく見ている。
 でも、ここがどこかなんて、僕にも、彼女にも、どうでもいいことなのだ。

 「地図を読めないことを怒り出す男がいるよね。あれは嫌い」
 「迷ったからって、どうってことはないのにね」
 「私たちは、いま迷ってるのかな」
 「それはボクらが、どこへ向かってるかによる」
 「どこへ向かってるの?」
 「さあ、どこだろうね」

 夜になれば、目に入った最初のホテルに入り、ビールを飲み、適当に食事をし、抱き合って眠るのだろう。
 拠りどころはそこにしかない、とお互い気づいているのだ。
 でもきっと、心の奥底では、何も分かり合えてないことを知っている。

 目覚めたとき、部屋の中に彼女はいなかった。
 ああ、そうか。
 何も判っていなかったんだ。
 置いてきぼりにされてしまったんだな。
 寝起きのぼんやりとした頭で僕はそう思った。

 外から鍵を差し込む音がして、彼女が部屋に入ってきた。
 僕を見て、にこりと微笑む。

 
 ほら、やっぱり何も判っていなかった。
 僕も彼女に笑みを返した。





 
 
 
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by telomerettaggg | 2008-02-26 20:43 | Nikkor50/f1.2 Ai-s