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横着な鹿

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 だいぶ昔の話になるのだけれど、10年も経っていないから大昔ではない。
 ちょうどそのころ、僕は北海道で警備員の仕事をしていた。一言で警備員といっても、交通整理もあれば核燃料を護衛する、といったさまざまな種類に分かれていて、その中でも僕は一番楽そうな、夜間の巡回警備を選んだ。毎日決められたルートを回って、警報が鳴れば現場へ駆けつける、そういう類の警備員だ。

 ときたま、巡回中に強盗に襲われて、鍵を開けさせられた上に殺された、などという物騒な事件も起こってはいたが、この国で警備員というのは名ばかりのお気楽な職業、というイメージが一般的で、僕もその例に漏れず、ぼんやりと日々の仕事をこなしていた。事実、5年間勤めたが、一度も泥棒には出くわさなかった。いたずらで幼稚園のガラスが割られた、そんな程度のものだった。

 あるとき、巡回中にある農業用資材の敷地で警報が鳴ったと連絡を受けた。
 その当時、大掛かりな窃盗グループによって、重機が盗まれロシアに横流しされる、という事件が相次いでいたので、充分用心して現場へ向かうように、との警告に、日ごろぼんやりしている僕も多少慌てて警棒の確認をしつつその場へ向かった。赤外線による警備システムが組まれているその農機具置き場は、敷地に入ると即座に警報が鳴るため、もしかすると外にも窃盗グループのメンバがいるかもしれない、と用心しつつ近づくと、そこには、出入り口の門扉に引っかかった鹿が、じたばたもがいていた。
 鹿の跳躍力はかなりのもので、2mほどの塀なら軽々と飛び越えてしまう。なのにその鹿がなぜ鉄の門扉に挟まれているのかといえば、飛ぶのが面倒で、このくらいのすき間ならいけるんじゃないか、と横着してすり抜けようとしたからに違いない。その証拠に、助けようと近寄った僕に驚いたほかの鹿たちは、慌てて塀をぴょんと飛び越えていったのだから。
 しかし、挟まった鹿が出てくれないことには警報は止まらない。仕方なく、鹿のお尻を押しまくって、その場から脱出させてやった。
 
 今思えば、蹴られなくてよかった。





 
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by telomerettaggg | 2008-06-21 21:23 | Nikkor50/f1.2 Ai-s