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四十肩になりました

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 雨が降っています。土曜まで降るらしく、今週末もどこにもいけなさそうです。
 修理に出したバイク屋さんからの連絡はまだありません。どちらにしろ自転車しか移動手段がないので雨が降ったらお手上げです。

 降雨のせいなのか不明ですが、右腕を上げたときに痛みがあります。40を過ぎたからと言って律儀に四十肩にならなくても、と思うのです。
 20代にオートバイで走行中ワゴン車にミラーで引っ掛けられたことがあり、そのときの古傷が元で痛んでいるだけかもしれません。

 「雨が降るとさ、俺の古傷が疼くんだよ」などとくさいセリフを吐いて様になるわけでもないので、「俺に触るな!触れると怪我するぜ、俺が」と言うことにします。おやすみなさい。







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by telomerettaggg | 2014-04-04 03:10 | summaron 35/3.5

偽善もまた善

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GUESS NOTEの続きです。未読の方は読んでからこちらを読むと話が繋がります。





 昔の日本人が考えた地獄には「賽の河原」というものがあるらしい。親より早く死んだ子供が行く地獄だそうだ。そこでは子供たちが延々と石を積み上げている。全て完成しそうになると鬼がやってきてそれを全部壊してしまう。子供たちは泣きながらまた石を積むことになる。

 親より早く死ぬことがどれだけの罪なのかはさておき、初めから無駄だと判っているのにやらなければならない苦痛とはいかばかりか、そんな地獄には行きたくないと思う。ロシアかどこかの囚人の労働に、延々と穴を掘って、またそれを埋めて、また穴を掘ってを繰り返す拷問のような作業があるそうだが、ずっとやっていると人は気が狂ってしまうという。無意味な労働は人をも狂わす。


 窓枠に腰掛けた女を見て何の脈略もないそんな思考が一瞬よぎったのは何の意味があったのか、僕にはよく判らない。ただ、人はあまりにもありえないシチュエーションにでくわすと、とっさに反応できないことだけは実感できた。


 銀髪の女というものを初めて目にした。その髪は長く、腰まで届くほどだ。

 長い脚や、見るものすべてを少し小ばかにしたような切れ長の目は、あとから気づいたことで、そのとき目を惹かれたのは、黒い右目とはしばみ色の左目だった。


 「ちょっと、あなた誰ですか?」


 状況をいぶかしむ言葉が出たのはまるまる10秒以上経ってからだった。

 そもそも、ここは5階だ。彼女が腰掛けているのはその窓で、隣とベランダで繋がっているわけでもない。文字通り、降って沸いたような彼女の出現に僕は混乱していた。


 「知らないわ、そんなこと」


 僕をおちょくっているのだろう、と思った。頭のおかしい女だとしても、物理的にありえない状況で出現した挙句、わけのわからない答えだ。


 「カッパ橋ってなんですか、よく判らないけど、早く出てってください」


 そう言うしかなかった。女はおかしそうに髪を揺らしながら答えた。


 「だいたい状況から察しがつくでしょ。あなたの持ってるそのノート、それを見守るものよ」


 「あ、悪魔?」


 「こんな可憐な悪魔がいるものですか。そうねえ、天使だと思いなさいよ」


 自らを可憐と言う存在など信じたくはなかったが、どこかに人間とは別個の生き物らしい、という印象はぬぐえなかった。それくらい超然としていた。しかし、天使ではない?


 「あなたが思う天使の定義って何?それとはきっと違うけど、たぶんそんな感じの存在になるんでしょうね」


 僕は深呼吸して現状を把握しようと努めた。冷静に考えれば、信じがたいが、この人?はこの「ゲスノート」に関係しているのは疑いようがない。


 「天使でないとするなら、いったいなんなんですか?人間ではないってこと?」


 「人間じゃないわね。人間は5階の窓に突然現れたりはしないでしょう」


 僕はとりあえず今一番知りたい質問を投げかけることにした。


 「それじゃ、なんのために僕の前に?」


 女は心底僕を馬鹿にしたような目つきで脚を組み替えがら答えた。


 「決まってるじゃない、新しいノートの持ち主を見守るためよ。わからないことがあったらなんでも聞いてね。あ、今落としたカップはカッパ橋で買ったんだけど、代金はあなたの口座から支払ったからね」


 意味は判らないものの、床に転がったカップを横目に僕はPCを開いた。ネットで口座残高を調べると、果たして、数百円の支払い履歴が残っていた。もちろん、僕には覚えのない支出だった。

 

 「ルール違反の願いをノートに書くたびにあなたの頭に落ちてくるよ。少しずつ大きくなるから覚悟しといてね」


 楽しそうな彼女の言葉に、勘弁してくれよ……と心の中で呟きながらとりあえず疑問を投げかけた。名前は?このノートって一体何?


 「名前なんてどうでもいいけど、そうねえ、アンジェラとでも呼んでもらおうかしら」


 アキ?まあそれはどうでもいい。


 「あなたが下衆な願いを書けばそれが叶う。あたしはそれを見ているだけ。助言はするし、質問にはできるだけ答えるけど、それだけの存在」


 ものすごく気になっていた質問をする。


 「あの、なぜ、水着なんです?」


 なぜか彼女、アンジェラは白のビキニ姿だった。ワンルームの、わびしい独身生活の部屋にその姿は非常に違和感があった。不釣合いを通り越している。ファーストフードでバイトしているのに行き帰りは運転手つきのロールスロイスみたいな不自然さを帯びている。


 「え、いいじゃない。休暇くらいどんな格好でもいいでしょう?」


 ほとんど全裸に近い姿に僕は直視できない。ある意味、さきほどゲスノートに書き込んだ願いは叶ってると言えなくもない。休暇ってなに?僕の顔にはそん疑問が思いっきり出ていたのか、大まかな説明を聞かされることになる。


 いい?まず神の存在を信じる?まあ、信じてようがそうでなかろうがどうでもいいんだけど、人が神と呼ぶような、そんな存在はいるの。あなたたちが思っているような形ではないけれど。人間とは別個の生命体よ。その一部があたしだし、あたしが神そのものとも言えるし、そうではないとも言える。人の考える概念とは全く違うと思って。


 とても大きな、そうね、銀河系を覆いつくすほどの、無数の生命体が集合となってあたしたちは存在している。それを神と呼びたければそうすればいいし、その一部のあたしを天使と呼ぶのならそれでもいいわ。そんな神の気まぐれがノートを生み出したの。あなたがそれを使うもよし、放棄するもよし、それで神の怒りを買うこともなければ世の中に大きな動きを産むこともない、そんなもの。だから気楽にやりましょうよ。


 「休暇、ってなに?」


 「無数の集合体がずっと一つの存在でいることはとても強いけれど、それは均一化を生み出すと同時に脆さも出てくるって事。なにかひとつの致命的なことで、全体を殺すことにもなりかねない。そんな事態を避けるため、集合体から分離して新たな意義を得る、それがあたしのようなものだと思って。判らなかったら別にいいのよ。だからあたしのことを天使だと考えてもらって構わない」


 言っていることの意味はよく判らなかったが、要するに、このノートを持っている限り、僕のそばにいるらしい。休暇だからビキニであることの説明にはなってないと思う。多分に彼女の趣味なのだろう。そう考えることにした。


 「そもそも、このノートがこんなに面倒なのはどうして?単純に幸せになる願いを叶えるってだけでいいんじゃ」


 「不幸な人と幸せになる人のバランスを取るためね。それもまた受け取り方によってどうにでもなるのだけれど。それにしても殺風景な部屋ね。お客様にお茶くらいだしなさいよ」


 普段友人すら招いたことのない部屋に現れたお客様が水着の天使とは。

 たしかに、僕の部屋には何もない。机と椅子、それにPCのほかにはなにもない。TVは見ない。塾には行っているが学校に通わなくなって何年経つだろうか、一人暮らしの部屋とはいえ、おおよそ趣味といえるものがない僕にはこの部屋が過しやすかった。が、アンジェラの要求に応じてコーヒーを淹れる。


 幸不幸のバランスを取る。それ自体はわからなくもない。ある意味奇跡と呼べる手法で幸運なものだけを出し続ければ世の中の均衡は崩れてしまうだろう。


 「じゃあ、極端な話誰かに一億円あげて幸せにしようとしたら、どこかで同じ額を失って不幸になるってことだよね?それは判る。でもそれも受け取り方によるってのは?」


 「なにを幸運と感じて、なにを不幸と思うのか、そんなことは誰にもわからないわ。お金を貰って不幸になったと感じる人もいれば、ホームレスなのに心の平安を得る人もいる。そんなことは当事者でない限り誰にも判らないってこと。だから、ノートの条件にあることは文章どおりに受け取る必要ないし、そんなことは不可能だってことよ」


 「ノートには、不幸になる人、幸せになる人、双方一人ずつでなければならないとあるけど、じゃあ、どちらも結果的に幸せに感じたとしたらどうする?あなたが始めに書いた向かいのマンションのおばあちゃんは幸せになったとするわね。じゃあ、下衆な行為の対象となった若者は?本当に不幸なのかしら。階段を昇り降りすることで少し健康になるかもしれない。そのことを若者は幸せに感じるかもしれない。

 もっと言えば、エレベータに貼紙をしにきた業者は?定時を越えて余計な仕事を命じられたことで少し不幸かもしれないし、不況の中仕事が出来て幸運に感じているかもしれない。第三者に幸不幸の可能性を与えた時点でルールには反しているけれど、それにたいしての罰則はなにもないの。だから、あなたは頭に盥が落ちてくるリスクを負うけれど、あとは自由にやればいいわ。失敗するたびに盥は大きくなるし、代金はあなた負担になるけどね」


 目からうろこが落ちた気がした。

 なにを幸せか、それとも不幸と感じるかは人次第だ。それくらいのことは理解しているつもりでいた。しかし、エレベータ業者のことは頭からすっぽり抜け落ちていた。そうなのだ、そこにも人は介在していたのだ。


 「じゃあ、僕のやることは一体なに?誰かを幸せにすること?」


 「あなたのやるべきことなんて別にないわよ」

 僕の淹れたコーヒーを湯気に目をしかめながら、それでも満足げに飲みながらこともなげにアンジェラは言う。


 「そのノートで何かを叶えたからって世の中は何も変わらないし、世界が平和になるわけでもないわ。それでも無駄が無ではないことを理解できれば、あなたにとってそれは有益なものになるかもしれない。それだけのこと。あとは、どんなことを願うか、その顛末を見せてあたしを楽しませて。個の独自性を獲得することであたしは自分の存在意義を得ることができるようになるわ。あなたが飽きてノートを手放すまでがあたしの休暇、つまり分離した個としての存在でいられる時間なんだから。せいぜい長いこと楽しんでよ」


 無駄は無ではない、の意味はよく理解できない。けれど、憤懣を溜め込んでモラトリアム期間だと自分を慰めるよりもなにかのチャンスを得たのだ、と思う。


 鬼はなんのために子供が積み上げた石を崩すようなことをするのか。

 そこに意味を求めてはならず、しかし積み上げたこと事態に意義を見出せるようになることが、僕にとってなにか得がたいものを獲得できるような、そんな気がした。


 鬼と呼ぶにはあまりにも美しい肢体をさらす天使の存在を前に、僕はそんなことを思った。






 続く(らしいよ)








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by telomerettaggg | 2014-03-23 02:30 | summaron 35/3.5

時代をループする

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 同じものなのに、時代によって呼称が変わるのはよくあることです。おじさんの私はなぜジーパンのことをデニムと呼ぶのかよく判りません。デニムは生地のことであって、飛行機を鉄の塊と呼んでいるような違和感を覚えます。バイク用品で革製品はレザーウェアと呼ぶのに対し、ポリエステルやナイロン製の高機能ウェアを昨今では「テキスタイル」と言うそうです。馴染みのない言葉すぎて聞くたびに頭の中では「的屋(てきや)スタイル」の寅さんが浮かんでしまうテロメアですこんばんは。瘋癲(フーテン)というのは今で言うとDQNになるのでしょうか?


 本や映画は好きなのに、苦手なジャンルがあります。
 もともと非常に偏ったジャンルしか読まない・観ないこともありますが、その中でも恋愛ものが非常に苦手です。他人の恋路を見て楽しむことが出来ない心の狭い性格なのかもしれません。あるいは、すれ違いや意見の衝突で喧嘩したりくっついたりといった物語が、「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」的な無関心さに繋がっているのかもしれません。

 そんな恋愛ジャンルでも、細分化したある分野だけはなぜか心惹かれるのです。
 それが一昨日書いたような、時代を超えた物語です。恋愛にSF要素が加わることで、何がそこまで惹き付けるのか自分でもよく判らないのですが、無性に感動してしまいます。

 きっと、根底にタイムトラベルもの好きなのが関係しているのかもしれません。「バックトゥーザフューチャ」に始まって、「時をかける少女」あるいは少しマイナですが「サマータイムマシンブルース」など、タイムトラベル、あるいはタイムリープものの映画を繰り返し観ています。小説だと恩田陸の「ライオンハート」は生涯読んだ中でもベスト10に入る名作だと勝手に思っています。世代を超えて、男女がたったの1日だけ出会う、それだけの設定なのに心惹かれます。
 あるいは万城目学の「ホルモー六景」収録の「長持の恋」。
 バイト先の蔵に置かれた長持の中にあった木簡で過去の若者と不思議な文通をする少女の話です。文だけの、決して交わることのない時代の人と交流する、それだけのことに心が躍ってしまうのです。

 そういった物語を何かご存知でしたら教えてください。
 テロメアは涙を流して喜びます。

 

 ※その他、このジャンルの好きな小説・映画・アニメ

 【小説】乙一「君にしか聞こえない」
 
 【映画】ジュブナイル・リターナー・今、会いに行きます・恋はデジャヴ

 【アニメ】シュタインズゲート






 
 

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by telomerettaggg | 2014-03-22 03:47 | summaron 35/3.5

ものは考えよう

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 ここで書くのは多分初めてですが、ジムに通っています。
 日曜を除くとほぼ毎日です。このジムはちょっと変わっていて、休むときには前もって連絡しなければなりません。さらに変わっているのは、通常なら月いくらかの会員費がかかるはずなのに、逆にこちらがお金を貰えるのです。

 もう判ったかと思いますが、私の通っているジム、それは会社です。
 しかし、そう考えるとこの仕事を始めて体重は15キロ落ちましたし、いくら食べても太らないのですから、ジムのようなものと考えても差し支えないでしょう。単調な軽作業に飽きながら働くよりも、お金を貰って体を健康にしているとしたほうが精神衛生上もよさそうです。

 二つのシフトがあります。この時間(現在午前3時)に更新されている時は遅いほうのシフトで、帰宅時は真っ暗になります。安全のためにライトで照らしているのですが、手が塞がるのが面倒で最近ヘッドランプにしました。当然ですが、頭に装着しているので顔の向きに合わせて照らしてくれるのでとても重宝しています。

 昨日、この状態で歩道を帰宅中、前を歩いている人がいました。危ないからやめましょう、と言われているにもかかわらず歩きスマホしています。
 突然その人が顔を上げたと思ったら横っ飛びに体をかわしました。一体この人は何をやってるんだろうと怪しんだのですが、理由は私のヘッドランプでした。彼はその光を自転車のライトの灯りだと思ったのでしょう、気づいた瞬間回避行動を取ったのでした。
 自転車に勘違いされた私でしたが、逆に考えると人が自転車に変身した貴重な体験でした。何事も発想の転換で楽しくなりますね。「髪の毛が後退しているのではない、私という存在が前進しているだけ」という名言を残した人がいましたが、そんな前向きな思考でありたいものです。てっぺんからハゲてきたらどう考えればいいのでしょう?いろいろ悩みは尽きません。







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by telomerettaggg | 2014-03-21 03:27 | summaron 35/3.5

The Joshua Tree

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 運命は残酷だ。
 
 ある人はそう言う。だが俺はそうは思わない。運命自体はただそこに転がっているもの、避けては通れない絨毯のようなものであって、それを残酷だと感じるか、幸運だと思うかは実際に通った者にしかわからない。
 数多くの選択肢を無意識に、または意識的に選び、まだ見ぬ未来を紡いで得たものが本当に自分にとって最高の結果であったかどうか、そんなことは誰にも結論を出せない。

 文字通り、降って湧いたような莫大な遺産相続人になり、豪華客船で大西洋をクルーズしている俺は、はたから見ればたいした努力もせず大金持ちになった成金の客にしか見えないだろう。

 しかし俺の心中はそれとは真逆だった。
 相続のゴタゴタで親族と揉めに揉め、心身共に疲れ切った俺はそれらから逃げるように追っ手のいない船へと身を隠した。大海原で心からはしゃぐクルーズ客を眺めながら、いまここで手すりを越えて海の藻屑となってしまえばどれだけ心が安らぐだろうか。そんなことばかりを考え続けた。しかし、死ぬ気にはなれなかった。

 思えば、一介の塾講師だった俺には将来の展望こそなかったものの、生活し、好きな映画を観て、たまに好きな音楽のCDを買うだけの収入はあった。それ以上のことは望んでもいなかったのに、いきなり一生遊んで暮らせるだけの遺産が転がり込んでも、当惑するだけで遣い道などなかったのだ。親族の欲深な叔母が言うとおり、相続放棄してしまえばよかったのだ。それをしなかったのは、講師の同僚がふとしたときに尋ねた一言にあった。
 「もし、君にいきなり大金が入ったらどうする?」

 どういった意図でそんな質問をするのかわからなかった。同じ歳の、いい意味で小賢しいその同僚とはそれほど仲がいいわけでもなかったが、それでも少し考えた末堪えた。
 「俺は特にお金が欲しくもないけど、困った人を助けられるくらいのお金があったらいいな、と思うことはあるよ」

 同僚は意外そうな顔をして俺を見ていた。
 遺産相続の話が持ち上がったのはそれから程なくしてだが、別に同僚がなにかをしたわけでもあるまい。結果として泥沼の裁判沙汰になり、死ぬことまで考えることになったわけだから。それでも、お金自体に罪があるわけではない。親族にはそれなりの財産分与することで決着がついた。それでも俺が使いきれないほどの金が残った。



 客船のデッキで、俺は身を投げることはなかったが、代わりに瓶を投げた。
 中には俺の連絡先が書いてある。この瓶を拾った人は連絡を欲しい。自分と友達になって欲しい、といった旨の文章を英語でしたためた紙片だ。

 どこかに届くとも考えていなかった。俺の代わりに海の藻屑になるか、永遠に海をさまよった挙句、ただのゴミとなってしまうほうが確率としてははるかに高い。
 22歳にもなる俺がこんな恥ずかしいことをしたのは、その船で出会ったとある老人の勧めによるものだが、その経緯は省く。このあと急ぎの用事あるのだ。その前に記録を兼ねて取り急ぎタイプしている。

 先を急ごう。そんなわけで俺は数ヶ月ぶりに日本に帰って来た。
 豪華客船の旅は楽しくないわけでもなかったけれど、また世俗の喧騒に帰って来た憂鬱と、ほかにもうるさい親族がやってくるのではないかという面倒さから、外界との接触をシャットアウトし、ひたすら部屋での娯楽に徹した。DVDで映画を観たり音楽を聴いたり。船で投げた瓶のことは頭から消えていた。

 帰宅後、3ヶ月ほど経った夏の日、一通のメールがPCに届いた。
 hello,my name is annから始まる全文英語のその差出人に全く心当たりがなかった。ただの迷惑メールだろうと反射的に削除しようとしたが、文章には不審なURLもリンク先もない。テンプレート通りの文とは違うものを感じた俺は、メールを読んだ。
 驚いたことに、俺が投げた瓶を拾った人からのメールだった。
 塾講師などよくやっていたなと呆れられるくらい、中学生英語のレベルしか解さない俺だが、翻訳サイトを使いながら読んだ「アン」からのメールには、俺と同じ22歳の女性であること、サンタモニカの海岸で瓶を拾ったこと、連絡先に書いてあったメールアドレスに通じるかなと半信半疑でメールを綴ったことなどがしたためられていた。

 どんな天の配剤で大西洋に投じた瓶がカリフォルニアの海岸に届いたのかはわからない。それでも返事が来たことに俺は狂喜した。さっそく返信した。

 拾ってくれてありがとう。から始まり自己紹介、日本に住んでいること、同じ年齢であること、もしよかったらメールをやりとりしたい、そんな内容を英文に翻訳して送信した。1週間後、アンからの返信が届いた。自分の知らない世界の話を聞かせて欲しい、私でよかったら喜んで友達になりたい、との内容で、そこからメールのやり取りが始まった。

 彼女はあまり自分の身の上を話さない。
 こちらからあえて聞く事もないが、文章の端々から想像するに、あまり裕福な暮らしとはいえないようだ。カリフォルニアのダウンタウンがどんな生活レベルなのか、日本に住む俺には理解する術もない。が、高校を卒業したあとは街のパン屋で働きながら、週末ネットカフェに行って知らない町のことを眺めるのが唯一の楽しみなのだそうだ。自分の部屋にはネットもなく、道理で返信が週末の似た時間になるなとは思っていたが、納得がいった。

 充分な教育を受けていないのか、彼女の歴史認識は俺の知っているそれとはちょっとずれていた。たとえば、自らの国を指すとき、ステイツではなく「American Empire」と書く。米帝とはいかにも大仰であるし、世界を律する存在としての驕りがあるのかとも思うが、特に追求することもなかった。性格なのかもしれないが、得てしてアメリカ人は自分の住んでいる場所を世界地図で指せ、と言われてもよくわからない人が多いという。日本がどこにあるかなど意識すらしてないのではないだろうか。彼女の認識では韓国と北朝鮮は一つの国になっているそうだし、ロシアとその周辺国もまとめて「連邦」になっているらしい。中国もその中の一つなのだそうだ。笑いをこらえるのに必死だったが、別にどうという事はない。認識上の国境と実際が違っていたからといってなにか困ることがあるわけでもない。

 瓶を拾ったサンタモニカの海岸は彼女のお気に入りの場所だそうだ。
 厳密には、海岸通にある一本の木が、とても大事な場所なのだという。その通りには砂漠に生えるジョシュアツリーが植えられている。同名の国立公園が南カリフォルニアにあることを検索して知ったが、海沿いに植林しても大丈夫なのだろうか。俺には判らなかったが、枯れてはいないそうなので平気なのだろう。彼女がなぜその木を気に入っているのか、その理由は判然としなかったが、数ヶ月メールフレンドを続け、打ち解けてきた頃、なんでもない風を装って、打ち明けられた。
 その木のそばには3人が座れるベンチがある。その下に、生後間もないアンは捨てられていた。誕生日もわからないので、発見され、孤児院に連れられたその日が彼女の誕生日になった。

 そのことを知ったとき、俺には返す言葉がなかった。そのことを特に恨むでもなく、なんでもなさそうにメールした彼女の心中はいかほどだっただろうか。
 ジョシュアツリーは成長が遅い。一年に10数センチしか伸びない。しかし、その両手を広げたような姿は神に祈るヨシュアのようだ、と旅人が名づけたのだという。その木の下に捨てられたアンは神の恵みを受けられたのだろうか?

 「自分の生活をもし昔に戻ってやり直せるとしたら、どうしたい?」

 そんなことを彼女に尋ねたことがある。返事はこうだった。

 「そういうのを含めて今のあたしがあるから。でも孤児院じゃくて、どこかのセレブがあたしを拾ってくれていたらどうなっただろう、って考えることはある」

 サンタモニカ。彼女を知るまで地名の一つでしかなかったその土地には有数の別荘地がある。そんなことを夢想するくらい許されてもいいだろう。
 名声はないが、金はある。そんな俺が彼女にいくばくかの金を送ったらどうなるだろう。そんなことも考えた。彼女の生活を激変できるだけの金銭が俺にはある。だがしかし、そんなことをアンが喜ぶとも思えなかった。ダウンタウンの狭い部屋とパン屋、たまにネットカフェ。ささやかながらそんな生活が幸せだと言う彼女に俺がしてやれることはなかった。

 それでも、いつの間にか彼女に一度会ってみたい、と考える俺がいた。
 不思議なことに、やましい気持ちはひとかけらもなかった。同じ歳の、メールに添付された彼女は笑顔が素敵な赤毛の女の子だったが、恋愛感情が微塵も沸かなかったのはどういうことなのだろう。それよりもむしろ、アンの幸せを願い、彼女のことを守ってやりたい、そんな親心にも似た感情が押し寄せた。

 会いに行きたい。そんなメールを送ったのは2月の初めだった。
 はじめは旅費を使って来てもらうのは申し訳ない、と控えめだったが、そんなことは問題ない、と説得するにつれ、ようやく了承を得た俺はすぐさまカリフォルニアへと飛んだ。自分の住んでいる部屋は恥ずかしいくらい汚いのでという彼女の言い訳も受け入れ、待ち合わせ場所に選んだのはサンタモニカのジョシュアツリーだった。
 「あたしの誕生日のちょうどひと月前ね」

 彼女は3月の中旬にそこに置かれたのだ。俺は何も返せなかった。ただ、楽しみにしている、とだけメールした。

 約束した場所、日時、俺はジョシュアツリーのベンチに座った。

 彼女は現れなかった。

 困窮した彼女は自分の部屋にはもちろん、携帯電話も持っていなかった。
 連絡先はいつものメールアドレスだったが、ベンチから送信したメールはあて先不明で戻ってきた。俺は一体なにをしたかったのだろう。なにを望んでいたのだろうか。わざわざアメリカくんだりまでやってきて、一人でいい気になって、そして約束をすっぽかされた。これほど惨めなことはない。

 それでも、日が沈む頃まで待って、その場を後にした。
 彼女の好きなそのジョシュアツリーに赤い布を巻いた。やけくそで書いた、「goodbye,ann」の文字を添えて。彼女がメールで書いていたほど、その木は大きくなかった。10m以上あるのよ!と誇らしげに言ってたくせに、実際のその木は植樹されたばかりの植木そのものだった。結局いろんなことが嘘だったんだ。
 失望した俺はそのまま日本へ帰った。来る時に考えていた観光や楽しい期待は跡形もなく消し去っていた。

 帰宅した俺のPCには、果たして、彼女からのメールが届いていた。
 約束の日、約束の時間にジョシュアツリーに行ったけれど、誰もいなかった、無事に着いたのでしょうか?と書かれていた。
 俺はうんざりした。一体何の目的でそこまで俺をたばかる必要があるのか。おもしろ半分に東洋のジャップをからかってやろうと考えたのか。

 「ちゃんとその場所に行った。その証拠に赤い布をジョシュアツリーに巻いた」

 メールにはそう書いて送った。恨み言を入れたらなんだか自分が余計に惨めになる気がしたのだ。

 週末の、彼女がいつもメールをくれるのと同じ時間に返事は届いた。

 「サヨナラってどういうこと?それにあの赤い布はものすごく薄汚れてたし、とても上の枝に巻かれていて取るのに苦労した。なんだか、ずっと前からそこにあったみたい。どうやって巻いたの?」

 何かが腑に落ちなかった。薄暗い部屋の中、モニタの照明に照らされた俺はそのまま考え続けた。結果、彼女に一通のメールを送った。

 ほとんど夢か幻か、一週間とはこれほど長いものなのか、まんじりともせずPCの前で待ち続けた。そして、彼女の返信を読んで、俺は全てを理解した。



 俺は、こう尋ねた。

 「正直に答えて欲しい。今は西暦何年?」

 


 ずれていた。彼女は俺より22年も先の未来を生きていた。
 そう理解すると、いろんなことに得心がいく。歴史認識がずれてると感じたこと。
 小さなジョシュアツリー。成長したジョシュアツリー。
 サンタモニカのベンチで携帯から送ったメールがあて先不明になったこと。

 最後のことはよくわからない。そもそもどんな奇跡が彼女とのメールを可能にしたのか、そんなことを理屈で説明できるわけがない。ただ、いろんな条件が重なったほんのはずみで、彼女と知り合えた。まだ生まれていないアンに出会えた。いや、実際にその姿を見てはいないのだけれど、その存在はひしひしと感じられた。

 俺は決意した。それがいい結果に繋がるのか、そんなことは判らない。
 ただ、できることをしようと思った。その場からネットで航空チケットの予約を取った。
 3月の明日、サンタモニカのジョシュアツリーの下。そこで彼女に出会える。
 生まれたばかりの、彼女は笑ってくれるだろうか?
 大きくなった彼女に、22歳の俺は君とメールしたんだよ、と言ったらどんな顔をするだろうか?

 運命なんて先でどう転ぶかわからない。
 俺のこの先などそれほど気にもしていないが、女の子一人を育ててあげるくらいの金はある。充分すぎるほどある。世界平和など望むほど心は広くない。でも、自分の好きな人の幸せを望むくらいの自由は運命にもあっていいんじゃないかと思う。

 出発の時間がもうすぐだ。







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by telomerettaggg | 2014-03-20 06:05 | summaron 35/3.5

コント「北風と太陽」

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   舞台中央に2mほどの地球の書割が置いてある。その下手に赤い布をマントのように羽織った女がいる。頭には「太陽」とかかれた帽子を被っている。女はエアギターをかき鳴らしながらオリジナルの歌を歌っている。

女「この素晴らしい地球に生まれて~ 美しい花があるのに~ 原発はいらないのよ~♪」

   舞台上手から男が登場する。灰色の布をマントのように羽織っており、頭には「風」とかかれた帽子を被っている。地球の書割の上手側をせわしなく終始歩いている。

男「太陽のくせにすごい自己矛盾を抱えた歌を歌ってるなあ。あんたの体内原子炉みたいなものだよねえ?」

   歌うのをやめた女が男に気づく。

女「北風さんじゃん!一緒に原発反対のデモしようよ!」

   男=北風はさらに呆れた表情をする。この間も絶えず歩き回っている。

北風「遠慮しておくよ……要するに、暇なんだね、太陽も」

   女=太陽は顔の前で右手人差し指を左右に振りながら北風に言う。

太陽「駄目!陽子って呼んでくれなきゃ!」

北風「太陽に性別ないでしょうに」

   太陽、頬に両手をあてながら

太陽「あーん、顔が火照ってきちゃった」

北風「そりゃ、燃えてるから」

太陽「ところで、ちょっとせわしなく動きすぎじゃないの?」

北風「だって、風だから止まると消えちゃうしね」

太陽「落ち着かないから微風になってくんない」

   北風、地球の書割の上手付近に立ち止まり左手だけゆっくり動かす。

北風「これでいいかな?」

太陽「それでいいわ。……それにしても、暇ね」

北風「太陽が活発になられても地球の人たち困っちゃうし」

   太陽、北風の言葉は無視する。

太陽「ねえ、なんかゲームやんない?」

北風「ゲームと言ってもねえ。あ、神経衰弱でもする?」

   北風、懐からトランプを取り出す。

太陽「ダメダメ、トランプを伏せて置いてもあなた風だからすぐどこかに飛ばしちゃうじゃないの」

北風「そうだった。それに太陽が触ったら燃えちゃうしね」

   太陽、右手親指で鼻の下を右から左へこする仕草をしながら

太陽「あたいに触れたら火傷するよ」

北風「いや、燃えちゃうからね?下手したらその場で蒸発しちゃうからね?」

太陽「じゃあ、なにしようか。ここでずっと地球を見てるだけなのも退屈しちゃう」

   二人、地球を見つめる。北風、地球の中東あたりを指差す。

北風「じゃあ、あのへんに人が一人いるよね」

太陽「あ、砂漠あたりを一人で歩いている人?迷っちゃったのかな?」

北風「旅人みたいだね。あの人が着ているマントをどっちが先に脱がせることが出来るか、勝負しようよ」

太陽「いいわねえ。じゃあ、あたしからいくよ」

   太陽、両手を中東付近に伸ばす。

北風「逆にサングラスして帽子まで被っちゃったよ」

太陽「陽射し強くしすぎちゃったかしらね」

北風「あのへんって暑い国だし、マント脱ぐより日差しを避けるためには逆に脱げないよね」

太陽「じゃあ、次は北風さんの番ね」

   北風、自分のマントを頭から被る。マントの下でごくわずかに動いている。

太陽「なにしてるの?」

   北風、マントから頭だけ出す。

北風「凪にしてる」

太陽「あっ、あの旅人マント脱いだ!」

北風「僕の勝ちね」

太陽「ずるい!北風なんだから盛大に吹かなきゃだめでしょうよ!」

北風「吹くも吹かないも僕の自由。そしたら勝手に太陽の日差しがほどよくなって旅人も安心してマントを脱ぐよ」

太陽「もう~。じゃあ2回戦ね」

北風「まだやるの?」

   太陽、地球の書割から少し離れた場所を指差す。

太陽「じゃあ、次はあの人。白い厚ぼったい服を着たあの人を裸にしたほうが勝ちね」

   北風、太陽の指差すほうを見ながら少し驚く。

北風「いやあれはだめでしょ!」

太陽「なんでよ~?」

北風「だってあれ、宇宙飛行士だから」

太陽「そうなの?変なヘルメットかぶってるなあと思ったけど」

北風「あれ脱がせたらあの人死んじゃうから!」

太陽「なんだ~残念」

北風「そもそも、空気がないから僕はあそこで風を吹かせられないし」

太陽「あ、そうか」

北風「もっと身も蓋もない話していい?」

北風「なあに?今日の陽子はいつもより可愛いねとか?」

北風「違うから!というか最近の君は黒点活動が活発ですから!」

   太陽、両手で顔を覆う。

太陽「酷い!人が気にしてることを!最近ファンデの乗りが悪くて困ってるのに!」

北風「人じゃないし!化粧とかできないでしょ!」

太陽「あたしも表参道とか歩いてみたい!渋谷の109とか行って「つけま」とか買ってみたい!」

   北風、太陽をとりなすように

北風「でもフレアの調子よさそうじゃない?すごく決まってるよ。コロナも流れるように後ろでまとまっていい感じ」

   太陽、北風の顔をじっと見つめて少し近寄る。

太陽「北風さん、優しい。あたし、北風さんのこと……」

   北風、太陽が全てを言う前に同じ距離下がる。

北風「駄目だって、それ以上近づいたら」

太陽「まるでハリネズミのジレンマみたいね、あたしたち」

北風「仕方ないよ。僕は君の活動によって存在してるからね」

北風「というより、僕は君と不可分の存在なんだけどね」

   北風の声に少しずつエコーがかかり、それと同時に彼は少しずつ上手側に移動する。

北風「ということは……もしかするとこれは太陽の独り言になるのかもしれない」

北風「もともと、初めから一人だったのかも」

   暗転5秒間。その間太陽は地球の書割の裏側にいる。北風は上手袖に姿を隠す。

太陽「北風さんどこ?どこにいるの?それとも……最初からあなたは存在してなかったの?」

   明転。地球の下手に立つ太陽、北風の姿はない。

太陽「わたしは気が狂ってるの?」

   地球の書割の裏から北風が飛び出す。

北風「なーんてね。ちゃんとここにいるって」

太陽「北風さん!」

   北風に駆け寄る太陽。北風は両手を前に出し必死に押し留めようとする。

北風「駄目だって~!!!!」

   太陽、北風に抱きつく。

北風「あ~あ」

   北風、マントを頭から被りその場に伏せる。

太陽「あっ!」


   幕が降りる。








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by telomerettaggg | 2014-03-19 04:18 | summaron 35/3.5

草木ダムへ行ってきました

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 久しぶりに数時間ほどオートバイでツーリングしてきました。
 ここのところ雨や雪、晴れたと思えばインフルエンザと週末どこにもいけない日々が続いていたのでいい気分転換になりました。

 ライダースジャケットを着たのですが、まだ風が冷たくて峠は肌寒かったです。行き先をダムにしたのは失敗だったかも。それでも展望台には数十台のオートバイが停まっていて、一足早い春の訪れを感じました。





 

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by telomerettaggg | 2014-03-16 18:44 | summaron 35/3.5

GUESS NOTE

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 空は明るく陽が差している。なのに僕の歩く路地は薄く靄がかかっている。
 誰が待つでもない帰路をとぼとぼと歩きながら、幸運でもなく、さりとて不運ともいえない人生を呪う。
 
 順風満帆とはいえないが、後ろ指刺されるようなことをした覚えもない。なのにふとした拍子に考えることといえば、僕の人生は果たしてこれでよかったのだろうか、ということばかり。そのことばかりが頭の中を巡る。
 何か事を成し遂げて目立ちたい欲求があるわけでもなく、しかしなにかやり遂げたい憤懣が澱のように溜まっていて、それが目の前の靄と同様、自分の目を曇らせている気がする。
 さっき塾で拾ったこのノート、誰かの忘れ物だったかもしれないのに持ってきてしまったのは、ちょっとしたいたずら心にすぎなかった。表紙に「NOTE」とそっけなく印刷されただけの、何の変哲もないノート。そこに持ち主が手書きで書き入れたらしい「GUESS」の文字。「ゲスノート」と読めばいいのだろうか。使っていた人間のセンスを疑う幼稚な駄洒落だ。

 部屋に着いた僕はやることもなく、そのノートを開いた。おそらく塾の授業で書き込んだ数式の類が書かれているだろうと予想していた。しかし全く違った。


※1このノートの所有者は想像するあらゆる下衆な行為を書き込むことで、その願いは現実のものとなる

 見開きの最初にそう書かれているのを読んだときもまだ、なにかの冗談の類だろうとしか思っていなかった。金釘流の、しかしはっきりとした意思を感じる太字で文字は記されている。さらにその下に書かれた文を読む。

※2所有者は下衆な行為によって誰かが幸福になるようにしなければならない

 意味が理解できない。誰が、何のためにこんなことを書いているのか。

※3下衆な行為によって幸福になる者は所有者であってはならない

※4下衆な行為を書き込むことで苦労する者、幸福になれる者は一人でなければならない
 必ずしも下衆な行為を受ける者と幸福になるものが同一である必要はないが、そのどちらも所有者が知っていなければ無効になる

※5下衆な行為が実行されたとき、誰かが死ぬ、または死を免れる事態を起こしてはならない。そのような書き込みは無効とされ、書き込んだ所有者には盥(たらい)……

※6所有者はいつでもこのノートの所有権を放棄できる

 盥ってなんだ?しかもその後に続く文はかすれて読めない。
 じっくり読んでみたが、要するに僕=所有者(実際は落とし主?)が書き込んだ下衆な妄想が現実になるということらしい。
 馬鹿らしい。僕は一旦そのノートを床に放り投げた。
 清廉潔白な人間というわけではないが、人を不幸にしたい願望は僕にはない。しかもひねくれているのは、その行為によって誰かを幸せにしなければならないということだ。
 5階の部屋の窓を開け放った。夕方とはいえまだ陽は明るい。少し寒いくらいの冷気が室内に侵入するが、かまわずそのままにした。冷ややかな風がカーテンを揺らす。

 僕がそのノートに書き込んで見る気になったのは、本当に現実のものになると信じていたからではなかった。記された条件を読んであることが気になったからだ。
 書き込んだ下衆な想像によって、その対象になる人物を不幸にすることが目的なのだろうか?
 これが本当に起こるとは思っていなかったが、これを書いた人物はなぜこんなややこしい条件をつけたのだろう。「これは誰かを幸せにするノートです」でいいではないか。そこをワンクッション置いて、誰かに下衆な行為をすることで間接的に誰かを幸せにする、そんなことは可能なのだろうか?

 思案しているうち、窓の外は暗くなった。僕は部屋の明かりをつけずそのまま考え続け、そして書き込むことにした。
 
 僕の住んでいる部屋から道を隔てた向こう側に、ここと似たような細長いマンションが建っている。ずいぶん老朽化しており、いつ取り壊されてもおかしくないほど外壁は罅割れている。住民は僕の知る限り、1階に一人暮らしのおばあさんと、5階の角の部屋に住んでいる若者だけだ。小さな町でもあったし、町内会長に年老いたおばあさんのことでなにかあったら助けてやって欲しい、と頼まれていたこともあり、そのおばあさんとは道で出会えば世間話するくらいの間柄だ。

 そのおばあさんがよくこんなことを話していた。いつも眠るのは夜十時を過ぎた頃なのだが、深夜になると5階の若者がコンビニに行くためにエレベータを使う。前述したとおり老朽化した建物に備えられたそのエレベータは速度も遅く、しかも稼動するたびに軋むような音を立てる。その音が毎晩決まった時間に2度鳴るため、眠りの浅いおばあさんは起きてしまうのだそうだ。若者は20そこそこだが、運動していないのかかなり太っている。不健康そうな白い顔にコンビニで買った鳥の唐揚げや焼きそばの入った袋片手にマンションへ入っていくのを僕も何度か見た事があった。
 「若い人だし、宵っ張りなのはわかるけれど、せめて階段を使ってくれないかしら……」
 注意することもできず、困っている様子のおばあさんのために、僕がそれほど面識のない若者に「夜は階段使いましょう」と言うのも変であるし、どうしたものか、と考えていたところだったのだ。

 よし、これをこの「ゲスノート」に書き込んでみよう、と思い至った。何も起こらないならそれはそれでよし、起こったならば、おばあさんは助かるわけで結果問題はない。あとは、どのような文章にすべきかだが……

 考えた末、僕はこうノートに書いた。

【**マンションのエレベータを夜間10時から朝5時まで停止することで○○(若者の名前)が階段を使ってヒイコラ言いながら苦労して上り下りする】

 ノートに書かれた条件の4によると、下衆な行為の影響を受けるものは苦労する者と幸福になる者以外に災禍が及ばないようにしなければならない、らしい。しかしあのマンションでエレベータを使うのはあの若者だけであるし、その点もOKだろう。

 
 さて、僕はどうなるのかまんじりともせずに夜の10時を待った。
 向かいのマンションの吹き通しになったエレベータホールの扉横には回数表示のランプがある。あのランプが10時になったら消える、なんてことは起きるのだろうか。
 
 動きは早い時間に起こった。マンションの前に白いワゴンが停まったのだ。サイドにはビルメンテナンス会社のものであることを示すレタリングがある。そこから作業服を着た男が降り立つと、エレベータホールと、5階に張り紙をして、そそくさと去っていった。僕は居ても立ってもいられずマンションへ駆けた。その張り紙は「老朽化につき22時~5時の間エレベータの使用を禁じます」と書かれていた。

 まさか、という思いと、本物だったのかという疑念を拭い去れないまま、手元の「ゲスノート」を見つめるのだった。
 しかし実際に現実のものとなった。あの貼紙の内容を若者が守るかどうかはどうだっていい。もし守らなかったら、そのことを注意することが出来るのだし、きちんとした使用禁止の大義名分は立っている。

 「ふう」
 僕は大きくため息をついた。
 これでおばあさんは安心して眠ることが出来るだろう。ほんのちいさな、小さな達成感を味わいながら、僕は次の願いをノートに書こうと思った。もうひとつ、確認したいことがあるのだ。

 【筆舌に語りがたい美女が僕に全裸を見せてくれる】

 コツ……

 頭に軽い物が落ちてきた感覚があった。これは?カップ?金属製だろうか?

「カッパ橋で買ったのよそれ」

 開け放ったままだった窓に透き通るような白い肌の女性が腰掛けていた。


つづく(のか?)







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by telomerettaggg | 2014-03-15 19:07 | summaron 35/3.5

宿木

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 盛大にはじける線香花火のような







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by telomerettaggg | 2014-03-14 17:16 | summaron 35/3.5

ベルビアチック

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 NEX-3Nには2つのモードがあります。
 一つはピクチャーエフェクトと呼ばれるもので、トイカメラノーマル・ポップカラー・ポスタリゼーションカラー・レトロフォト・ソフトハイキー・パートカラーレッド・ハイコントラストモノクロ・ソフトフォーカス中・絵画調HDR・リッチトーンモノクロ・ミニチュアオートの11種があります。

 もうひとつはクリエイティブスタイルでVivid・ポートレート・風景・サンセット・白黒・スタンダードの6種。こちらはさらにコントラストや明るさを微調整できるようになっています。

 モノクロだけで3種もあるのは嬉しいのですが、別系統になっている意味がよくわかりません。普段使うのはほぼスタンダードとクリエイティブスタイルの白黒なのですが、優先されるのはピクチャーエフェクトなので、あれ?っとなってしまうことがあります。

 ピクチャーエフェクトのハイコントラストモノクロは森山大道のようなモノクロ写真でなかなか面白いです。しかし、クリエイティブスタイルの白黒で設定をコントラスト+3、シャープネス+3にしても同様の効果が得られるのでどちらでもいいでしょう。どの効果も編集でどうにでも出来てしまうわけで、簡易的に楽しむためのものと割り切ったほうがよさそうです。そもそも3Nという機種自体が初心者や女性向けのモデルなので、PCで編集までする人のことはSONYも想定に入れていないのでしょう。

 それでも、このVividは自分好みです。フィルムのフジベルビアを意識しているのかはわかりませんが、記憶の中にある色合いによく似た絵になります。ちなみに実際のベルビアの写真は・・・

 
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 プラナー50mmF1.4 RVP

 全然違いますね///

 






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by telomerettaggg | 2014-03-13 18:25 | summaron 35/3.5