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世界の終わり



 窓から差し込む光がとても眩しい朝、僕とナオは長老のもとへと向かった。
 いつからそう呼ばれているかは知らない。ただ、皆がそう呼んでいること、「村」で一番の年寄りなので、僕もナオも、特に疑問もなく「長老」と口にしていた。
 「それにしても、いったい何の用事であたしたちを呼んだのかしら」ナオは不思議そうに僕を見つめながら尋ねる。
 「さあ、僕にだって判らないよ、そんなこと」
 実際、長老が大勢の前に顔を見せるのは、大きなお祭りのときか、葬式の時くらいで、ましてや、年端も行かない子供を個人的に呼び出すなど、今まで聞いたことがなかった。
 僕は今、15歳になったばかりだ。
 そして、ナオもまた、15歳になって初めての冬を迎えている。
 「村」には僕とナオ以外に同じ年の子供はいない。一つ下の男の子と女の子、それからもう一つ下の男の子と女の子はいる。一歳ごとに、それぞれ男女が一人ずつだ。「村」とはそういうものだと教えられてきたし、それが特別変わったことだとは思わなかった。ただ、気づいたら、皆同じ年齢の男女が一組づつしかいない。そういえば、僕の父さんと母さんもおんなじ歳だ。
 昨夜、父さんと母さんは僕に
 「明日、長老の所へ行きなさい。ナオと一緒にだよ」と言った。
 精一杯隠そうとしていたけれど、僕は気づいていた。二人とも何かをこらえながら、声を震わせていたことに。
 そのときは、息子が長老に呼ばれた、という特別な行事のために緊張しているのだろう、と思い、僕まで「は、はい」といささか力のこもった返事になってしまったけれど、それにしても少し変だった、とは思う。
 ナオの家でも同様に、同じことが、同じ時間に起こっていたそうだ。何があるのかはわからないが、それも、長老のところに行けばはっきりするだろう。

 「村」では、50人ほどがひと固まりになって生活している。四方を険しい崖に囲まれた、端から端までほんの1時間ほどで行き着くほどの小さな「村」だ。真ん中を流れる小川では、いつも魚が獲れたし、畑に必要な水もそこからまかなえた。水車もあって、そこかで発電した電力は、10戸余りの夜を照らすだけの充分な明かりを作り出している。

 長老の家は、「村」のはずれにあった。そこで長老は一人で暮らしている。年に数回しか会うことのない長老の顔は、長くて、白い髭が顔のほとんどを覆っており、薄く開かれた瞼から見える目は、威厳があるというよりも、とても優しいものだったように思う。物心ついたときから今まで、外見はまったく変わらず、歳もとっていないように見えたが、それは父さんも母さんも、そして「村」のどの大人たちにしても等しく同じに見えた。

 横を寒そうに歩いているナオは、まだ不安そうだが、それでも一人ではない、という安心感もあるのか、笑いかけたり、眉をしかめたりと落ち着きがない。
 ナオとは、ずっと、小さな頃から二人で遊んできた。歳の近い子供は他に何人もいたし、皆と仲良くしなさい、といつも耳が痛くなるほど言い聞かせられてきたのに、どうしてもなじむことができなかった。いじめられたとか、仲間外れにされた事は一度もない。むしろ、何度断っても遊ぼうと誘ってくれる。なにしろ、「村」に子供はほんの20人しかいないのだから。
 理由などは何もない。なぜか、ここは僕の居場所ではない、という思いが強く頭の中に焼きついており、行ったこともない「村」の外について思い巡らす。
 僕は、「村」の外に何があるのか知らない。険しい崖の間一つだけある山道を登れば、外に出られるのだろう、ということはわかっていたが、両親は「決して「村」の外に出てはいけない」と厳しく言いつけられていた。というよりもこれは、村の掟でもあった。
 ずっと小さな頃、両親に「ねえ、なぜ出てはいけないの。なぜ?」と尋ねたことがあった。でも、両親は悲しそうな顔をして「それがこの「村」の掟なのよ」というだけだった。
 好奇心は人一倍持っていたし、出たい、そして外の世界を見てみたい、という思いは募るばかりだったが、いかんせん、子供の脚で登ることのできる崖ではなかったし、崖の割れ目といってもいい山道の出入り口には頑強な門がそびえており、そこを飛び越えることは不可能だった。

 10歳のとき、門をどうにかして超えられないかと思い、夜半過ぎ、こっそりそこへ行ったことがある。誰にも気づかれないように、忍び足で近づいていった。薄闇の中、黒く塗られた門の柱は、崖に埋め込まれる形で据えらており、近寄るにつれて見上げるほど巨人の脚のようにそびえていた。。鉄板で幾重にも補強された扉は、乗り越えることなど考えられないほどにそそり立ち、僕はそれを前にしてため息をついた。
 もうすぐ夜が明ける、帰らなきゃ、と後ろを振り向いたとき、視界の隅に人影がよぎった。しまった、誰かに見つかったかも、隠れなければと考えたが周囲には身を隠すものは何もない。覚悟を決めてその人影に向かって踏み出すと、そこには、ナオが震えながらうずくまっていた。なんのことはない、ナオも僕と同じように、門を覗きに来ていたのだ。僕よりもさらに小さな、その細い体で、門を登り越えられると思っていたのだろうか。
 そう尋ねると、実は、僕のあとをつけてきたのだと言う。
 「一緒なら、越えられるかもと思って」

 そうして、僕はナオが同じように「村」の外について思いを馳せていることを知った。二人きりで遊んでいたというよりも、それは秘密を共有しあう仲間のようなものだった。特訓、と称して野山を駆け回ったり、釣りをしながら、あるいはちょっとした隠れ家にしていた草むらの中で、僕とナオは飽きることなくそのことについて話し合った。この外はどうなっているのか、どこへつながっているのか、なぜ外へ行ってはいけないと皆は言うのか。
 「もう少し大きくなったらきっと崖を登ることもできる。そうしたら、一緒に外へ行こう」
 そういうと、ナオは嬉しそうにうなずく。そして、二人で高い崖の頂を見つめた。二人とも15歳、もうすぐ大人だ。体力もついた。きっとあと少ししたらここから出ることができるだろう。

 今、そんな二人が、門へ向かって歩いている。長老の住まいは、門のすぐ横にあるのだ。

 家、というより小屋に近いその小さな木造りの住まいの扉をノックすると
 「入っておいで」という声がした。
 想像していたよりずいぶん柔らかいその声に、少しだけ安堵のため息を漏らしながら、中へと向かう。僕とナオを迎えるためだろうか、真ん中にあるストーブには薪が充分に燃やされ、暖められていた。
 「来てくれたね。二人ともそこに座って」
 言われるまま、並んでストーブ前の長いすに腰掛ける。長老は、やはり前に見たときと少しも変わっていない。80歳をはるかに越えているだろうに、日焼けした顔、それを覆う白髭。
 「あ、あの、なぜ僕たちは今日ここに呼ばれたのでしょうか?」恐る恐る、そう尋ねる。心に疚しいことなど一つもない、とは言い切れない二人なだけに、細い瞼に隠された目にすべてを見透かされているように思えた。僕もナオも、終始びくびくしていたかもしれない。
 「二人は「村」の外に出て行きたいんだね」
 長老は僕とナオの顔を交互に見つめながら、静かに言う。
 「隠そうとしなくても、知っているんだよ。二人が、門を越えようと思っていることもね」
 「ごめんなさい」僕はどうしていいのかわからず、体を小さくして謝る。きっと恐ろしい罰が待っているのに違いない。いままで「村」の外に出ようとした人はいないけれど、それが掟として定められている以上、なにかしらの罰は必ず下されるのだろう。それがほんの軽い罪であっても、掟を破った者には、拘束や、奉仕などが科せられているのを何度も見て知っているからだ。しかし、長老の言葉は意外なものだった。
 「どうして謝る?たしかに「村」の外に出てはいけない、という掟はあるよ。でも、君たちはその掟を破ったわけではないだろう?ただ、出てみたい、と考えること自体は何の罪でもないさ。もう一度聞くよ。二人は、「村」の外に出てみたいんだね?」
「はい、この「村」の先がどうなっているのか、知りたいんです」ナオは答える。こういうとき、女の子の方が度胸あるな、と思う。あとを追うように僕も「はい」と言う。
「では、行きなさい。道は険しいけれど、二人とももう15歳だ。きっと上まで辿り着けるだろう」


 僕とナオは、険しい山道を登っている。道とはいっても、誰かが頻繁に通ったような形跡はない。ただ、一番歩きやすく、ましな部分を選びながら進んでいく。木の根や岩につかまりながら、すこしづつ体を上に押し上げていく。
 長老は二人分の荷物をすでに準備していた。ザックの中には、食糧、着替え、ロープやナイフなどが入っていた。着替え?つまり、二人の両親はこのことを知っていたと言う事になる。
「ちょっと待ってよ、そんなに早いとついていけないよ」ナオが泣きそうになっている。考え事をしているうち、いつの間にかナオを引き離していた。それもそうだ、体力に自身のある僕でさえ、息が切れるほどの急な登りなのだ。その上、頂への視界ははうっそうと茂った木々に阻まれ、今自分たちがどのくらい登ってきたのか見当もつかない。引き返し、ナオの手を取って引っ張りあげる。ぐい、と引く彼女の体は軽く、勢いあまって転びそうになってしまう。
「少し、休憩しようか」と提案する。
ザックの中に入れられたパンをほおばりながら、あとどれくらいだろう、と話し合う。
「それにしても……」ナオが言う。
「なぜ長老は、門を開けてくれたのかなあ。だって、掟で禁じていたんでしょう?それが、なぜ急に行ってもいいと言ってくれたのか、それが不思議なの」
たしかにそうだ。でも、それも「村」の外に出たらわかることなのではないだろうか。根拠は何もないが、なんとなくそういう気がした。
「前にも話したけれど、「村」にはおかしなことがいくつもあるよね。同じ歳の子供が男女ともに一人づつしかいないこと、それも1歳違いで6歳から15歳まで。父さんと母さんの年齢は決まって同じで、ただ、長老だけが一人で暮らしていること。そういうことも全部、ここを出たらわかるような気がするんだ」
「あなたはいつもそうだよね。気がする、とか勘なんだけど、とか」とナオは笑う。
そういえば、長老の家を出るとき、ナオが妙なことを言った。
彼女は長老に質問した。なぜあなたは皆に長老と呼ばれているのですか?と。なんておかしなことを聞くんだろう、と僕は笑いそうになったけれど、長老ははっきりと答えた。
「それは、わたしが一人だからだよ」

 「なぜ、あんな質問をしたの?」おいしそうにパンを食べているナオに尋ねる。
「だって、そうなんだもの。皆に長老、と呼ばれているけれど、いつからそうなのか、どうしてそう決まったのか、誰も知らないの。いつか聞いてみたいな、と思っていたんだけれど、一人だとなぜ長老になれるのか、わかんないなあ」
きっと、その答えもこの「村」を出たら判る気がする。


どれくらい登ったか判らない。いつまで経っても辿り着かないので、道に迷ったかと思ったが、迷うほど入り組んでもいなかった。登ることさえ間違わなければ、いつかは頂上につくはずだ。森の、どこか遠くのほうでフクロウの鳴く声が聞こえる。もうとっくに夜なのだろうか。
それでも、ずっと上のほうに、わずかな明かりが見えたとき、僕はナオの手を引き、大急ぎで、そして大喜びで力を振り絞って登った。ナオも相当疲れた顔をしているが、それでも嬉しそうだ。

そこは、月明かりの照らす場所だった。水がいっぱい溜まった、とても広いところ。そこに、満月が写っている。遠くのほうは靄がかかっていて、よくは見えない。ここはいったいどこなのだろう。これが、「村」の外なのか。
二人でよく話していたことがある。あの崖を登りつめたら、きっとそこから遠くまでが一望できるんだろうね、そこから、また坂を下って、よその「村」へいけるのだろう、そう想像していた。しかし、予測とはあまりにも違いすぎる光景に、僕もナオも、呆然として立ち尽くしていた。

「ここは、「世界の終わり」だよ」
ふいに声がした。振り向くとそこには長老が立っていた。
いったいここまでどうやってきたのだろう。僕らのあとを追いかけてきたのだろうか。
「これは、海というんだ。この海の向こうに、「世界の始まり」がある。お前たち二人は、そこを目指すんだよ」
長老に手を引かれ、僕たちは水辺を歩いていく。そこには、1艘の小舟が波に揺れていた。小さな帆の上にはランタンの明かりがともされている。
「波の赴くままに流れていけば、きっとそこに辿り着ける。そこには、ほかの同じような子供たちがいるはずだ。お前たちはそこで新しい「村」を作るんだよ」
長老の言葉は優しく、しかし抗うことのできないなにかを含んでいた。僕もナオも、だまって誘導されるがまま、舟に乗り込む。舟には見たこともない金属の箱が積まれている。長老がそれは※※だ、と説明してくれたが、それがいったいなんのことなのか、まるでわからなかった。かろうじて、行き先までその箱が連れて行ってくれる、ということは理解できた。

箱に一つだけあるスイッチを長老が押すと、舟は軽い振動とともに進み始めた。靄の中を抜け、舟は海を「海」を渡っていく。僕はナオの小さな手をとり、進む先を見つめる。遠く、はるかむこうにひとつ、また別の方向に一つ、ぽつんぽつんと明かりが見える。あれが、別の「村」の子供たちの舟なのだろうか。

きっと、「世界の始まり」に行けばそれもわかるだろう。
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by telomerettaggg | 2009-01-30 17:22

大波来てます




ここ数年は特に問題なかったんですが、6年ぶりくらいで、かなり大きな波が来ております。
しばらく更新できないかもしれませんがご了承ください。




 
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by telomerettaggg | 2009-01-20 12:41

生存報告更新

 
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 あけまして。

 高熱でも意識が朦朧とすることがあまりないので、きづかず日常生活を送ることが多いテロメアです。
 しかしやはりというか、年末から年始にかけてダウンしておりました。
 こういう、病のときに感じる寂寥感というのでしょうか、あれはやっぱりきついですね。お腹へっても誰も作ってくれる人はいない、寒い、暗い、怖い。

 とはいっても、大部分の日々は一人のほうが圧倒的に楽だという事実を知って選択したことなので、どうしようもないんですけどね。たまに、ああ、看病されてみてえなあ、などとわがままを感じたりもするわけです。そんなときにヘルニアも襲ってきてダブルパンチといったところですが、まあ生きております。






 
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by telomerettaggg | 2009-01-05 15:36 | summaron 35/3.5