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カササギの巣の下で

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「あの枝の固まりはなに?」
「ん?」
「ほら、あの木の途中にあるやつ」
「ああ、カササギの巣のこと?」
「そうそう。へえ、カササギって言うんだ」
「君も見たことがあるはずだけど」

 カササギは、大きさ、姿形からするとカラスのようにも見える。
外見上はっきりと識別できる印は、漆黒の羽を持つカラスとは見まごうはずもない、くっきりとはいった白のストライプだ。
いつ巣作りしているのか、注意して見たことはない。枝を運ぶ姿を見たことはないような気もする。たぶん、そんなに注意してみる鳥でもないからかも知れない。この地方では、スズメやヒヨドリとおなじくらい、そのへんにいる鳥だからだ。

「どんな鳥なのかなあ。あたし見たことある?」
「きっと見てるはず。白黒模様のカラスみたいなのだよ」
「……あっ、パンダガラスのことかあ」
「なあにそれ?」
「あたしが勝手にそう呼んでるだけ。なんか、カラスがパンダの白黒に憧れて白を加えてみましたって感じだなと思って」
「熊がシャチに憧れて出来たのがパンダ、みたいな?」
「う~ん、なんかそれズレてる気がするけど」
「そうかな」
「そうだよ」

元来、カササギは九州から中国地方に暮らしているだけだったらしい。なんでも温暖化のせいにしたくはないけれど、近年は関東近辺でも見かけることがある、と聞いたことがある。
鳴き声は、拍子木を打ち鳴らしたような音。僕が暮らす地方では、その鳴き声からの俗称だろうか、カチガラスと呼んでいる。彼女のパンダガラスと大して変わらないネーミングではある。

川沿いの遊歩道から少しそれた道を、僕と彼女は二人で歩いている。
未舗装の、ろくに整備もされていない、寂れた道。うすぐもりの、風もない暖かな日。
歩きながら、彼女は不思議な行動を取る。理解も出来ない言動は昔から数え切れないほど見てきている僕は、それについて何も言わず近況などを聞いている。
話しながら、枯れた草の茎を折り取り、同様に茶色く縮んだ葉をすべて取り除く。棒状になったそれを落とす。それから、また草を折る。それを眺めながら、なにかの儀式だろうか、と僕は考える。
久しぶりに会う彼女は、都会で暮らしてなにが変わったのか、その外見からは全く想像もつかない。環境が変われば考え方も、ファッションも、次第に変わっていくもの、という考え方は、改めたほうがいいかもしれない。なにを考えているのかは、言動から全く読めないのは昔から同じなのだけれど。

「そうそう、カササギにはね、不思議な能力があるって言われていてね」
「へえ、どんなのどんなの?」
「うん、彼らが木の高いところに巣作りする年は、台風の被害が少ないんだって。」
「え~っ、じゃあ、低い時には台風バンバン来ちゃうんだ」
「科学的に実証されてるのかは知らないけど、そうらしいよ」
「ふーん、すごいねえ、ごみを荒らすカラスとは大違いだねえ」
「カラスも結構賢いけど」

カササギの巣を二人で見上げながら、じゃあ、今年はこの高さだから多分安心だね、と安心する。
彼らの姿は見えないだろうか、と辺りを見回すが、飛ぶ姿はおろか鳴き声も聞こえない。

あの巣のように、これから先どうなるのか、どうしたいのか、なにを望んでいるのか、すべて軒先に吊るした何かでわかるようにすればいいのに、と考える。自分の未来が知りたい、ということではない。先のことにあまり興味はないと言えば嘘になるが、知ってしまってどうする、とは思う。

「あれ、あたしが撒いたやつ、なくなってるよ」
「来るときにちぎってた草のこと?」
「うん。風もないのに、どこかに吹き飛ばされたわけじゃないよね」
「なくなると家に帰れなくなる?」
「いやー、あたしヘンゼルとグレーテルじゃないから」

カチカチ、と声がした。
見上げた先に、2羽のカササギがいた。
「あ、見てみて、パンダガラスだ!」
「だねえ」
「何か咥えてるよ、なんだろう?」
「君の撒いた草じゃない?」
「ほんとうにそうかも」

なにかを考え込むように、彼女は嬉しそうに笑っていた。
僕には判らない。なにかの願掛けだったのかもしれない。草を撒くことに、深い意味があったのかもしれない。一日のうちにビートルを20台見たらなにかいいことがあるかも、と喜んだ子供の頃の僕と同じようなものかもしれない。そう彼女に話すと、なんかそれズレてる気がする、と言われた。

 そうかもしれない。
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by telomerettaggg | 2010-10-04 15:55