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影と冬枯れ

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 幼心にも、日差しに照らされて地面にくっきりと刻まれる自分の影に生命を感じることなどなかった。
 だがしかし、大人になってみて思うに、死んでいるように見えて実は生きている生物があると知った。サンゴは石ではなく虫の一種であるのだから、もしかすると影も生きているのかもしれない、などと考えて空恐ろしくなることもある。

 恐ろしいといえば、冬枯れの木の佇まいも相応に恐ろしい。落葉して丸裸になった木に生命の息吹など感じられない。斧で斬りつければ生木が見えもしよう。だがそのままの姿は死を想起させてしまう。


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 そもそも、葉でさえ少し怖い。御存知のとおり葉は植物にとって光合成を行う命の源そのものの部位だが、「葉緑体」などと名づけられながらも、緑はいらないものなのだ。
 光合成するにあたって必要なのは光の三原色のうち黄と赤のみで、必要ない緑だけが透過して我々の眼に映るのである。だからあれは命の輝きなどではなく、植物の排泄物の色と表現してもおかしくはない。もっとも、排泄物も生命活動の一環ではあるのだが。

 そのような怖い木の、それも影となったらもう身震いが止まらない。いまにも影が分離して遊ぶ人たちに襲い掛かりそうな錯覚さえ抱いてしまう。公園にいる人々は僕がそんな恐怖に打ち震えながら歩いていることなど心に浮かびもしないのだろう。それがまとも。それが平和。
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by Telomerettaggg | 2016-01-12 18:00 | SIGMA 30mmF2.8DN

悲しみは地下鉄で

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 悲しいほどに人の心の機微がわからない。
 それと同時に、なぜ僕はこんなに理屈で物事を考えてしまうのだろうと鬱屈した感情に支配される。

 高校生の頃、飼っていた猫が車に轢かれて死んだ。
 僕は新聞配達をしていて、毎朝5時前に家を出る。販売所で新聞をカブに積み込み、それから家の前を東西に貫くバイパスを配達区域まで向う。
 高速道路への接続道路にもなっているので早朝でも交通量は多い。その日も大型トラックにおびえながらバイクを走らせていたのだが、家の近所に弾かれている猫を見たときも、それが自分の家の猫だとは全く思い至らなかった。まだ陽は上っておらず薄暗かったからかもしれない。
 配達が終わって同じ道を戻るとき、あれ?これってまさか……血の気が引いた。
 
 猫は外傷こそほとんどなかったもののお腹をタイヤに轢かれて長くなっていた。血はそれほど出ていなかった。僕は猫をバイクのカゴに乗せて、泣きながら家に戻った。
 家族に猫が死んだことを告げ、ひとしきり泣いた。

 高校に行く時間が迫っており、僕は涙を拭きながらも心のどこかは冷静だった。手を洗わなきゃ。死んだばかりの猫を汚いと思った意識はないのだけれど、なぜかそう考えていた。


 感情より、理性が先にたってしまう。それは今になっても変わらない。


 女の子と友達になった。
 初対面の印象は、猫みたいな子だな、だった。
 仲良くなってからそのことを言うと、自分はどっちかというと犬派だからと不本意そうではあったけれど、切れ長の目や狭い額が上品なペルシャ猫を思わせる風貌で、とてもかわいらしかった。
 最初はどちらかというととっつきにくく、一旦心を許すとずかずか僕の心に踏み込んでくるところも猫のようだと思った。踏み込まれた僕は、しかしそれを不快には感じず、むしろ心地よく思った。
 誰にでも心を開かない僕も、その子には本音で物を言う事が出来るようになった頃、ちょっとした不注意で心にもないことを告げたことで、彼女の態度は一変して冷たくなった。
 しかし、僕の言葉のどこが彼女の怒りのスイッチを押したのか、それが全く判らない。話したことをよくよく思い返して、あれだったか!と腑に落ちたときはもう遅かった。
 拒絶の一辺倒に僕はなす術もない。言いわけも、謝罪の言葉も逆効果になってしまう。時間が解決してくれるものと願いながら、悲しくなる。

 所詮、理屈は感情論に太刀打ちできない。
 判って欲しいと言葉を尽くしてもそれは意味を成さない。彼女の沈黙が怖い。恋愛感情がゼロだといってしまえば嘘になるが、別に彼女と付き合いたいとはあまり思わない。そもそも、彼女には好きな人がいる。その人を少し羨ましいとは思っても、それを奪ってどうにかするとか思ってもいなかった。
 ただ、仲のいい友人でありたい。そう願い、その関係がこのまま続くことが一番の望みだった。

 この話に結末はない。解決策もない。なぜなら彼女はもういないから。僕の前から、この世の全ての人の前から姿を消してしまったから。

 後悔のない人生を送りたい。
 そう願ってきたけれど、ただひとつ僕が後悔するのは、彼女の誤解を解くことが出来なかったこと。仲違いをしたままになってしまったこと。

 ただ、それだけ。

 でも、それはもう叶わない。

 僕が出かけるとき玄関の鍵を閉めなかったから猫は死んだ。賢かったその子は自分で戸を開けて外に出かけ、そして轢かれた。

 悲しみは理性で打ち消せるのだろうか?それらはひとつの人格の中で、はたして同居できるのものなのだろうか?そう想う時、自分が人間ではない、いびつな存在に感じられてならない。









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by Telomerettaggg | 2014-10-28 06:28 | SIGMA 30mmF2.8DN

スラックライン

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1話:GUESS NOTE
2話:偽善もまた善


 あなたは平均台の上を歩いている。
 向こうにたどり着く前に大きな地震が来て、あなたは落ちてしまう。下にはマットがあるから落ちても怪我することはない。イメージの中であなたは右に落ちた?それとも左?


 「なにこれ。人間はこんなものを見て楽しんでいるの?意味が判らない」

 ソファに寝そべりながらアンジェラは僕に話しかけるでもなく独りごちる。彼女が僕の前に現れてからというもの、この部屋には物が増えた。TVを勝手に出す、寛ぐには最適のカウチソファを出現させては、僕の口座残高を減らしていく。なんでも出すことが出来るのなら、僕のお金を浪費しなくてもいいじゃないか。そう抗議したこともあるが、「なんでも等価交換なのよ。ゼロから1にしてるわけじゃないの。有る物を持ってきてる以上それに見合った対価は支払わなきゃいけない」とにべもない。
 特に使い道もない金なので、彼女が多少浪費したところで生活に困ることはないものの、なにか不条理を感じてしまう。

 アンジェラはTVを見ている。そこにはとある人気ラーメン店に修行のため入った若者をドキュメンタリーで追いかけていた。店主に怒鳴られ、時には泣きながら頑張る若者を応援する、そんな内容だった。

 「馬鹿じゃないの。精神論なんて必要ないのに」
 憤りを隠せない様子のアンジェラも、それなりに番組を見て楽しんでるんじゃなかろうか、と思いながら口には出さずにいた。

 「でも、そういうの多いよ。努力した分報われる話に人は弱いのかもしれない」

 「つうか、しなくていい努力なんてしないほうがいいに決まってるじゃない。なに、この仕事は盗め、とかお前は本当にラーメンを愛してるのか?とかさ。効率まるで度外視。怒鳴りまくってる店主を見てこのお店に行こうって気になるの?あたしは勘弁」

 まあ、そういうものだろう。嫌なら辞めればいいのだし、それでもそんな効率では測れない努力を評価する人は多い。味は同じでも人が作ったものと機械が製造したものでは前者のほうがおいしいと思う客はわりといるものだ。気持ちの問題がそこには大いに関係しているのだろう。アンジェラの嘆きには大いに同意するが、一筋縄ではいかないのが人間の社会なのだ。

 ふと、思いついて彼女に尋ねてみる。

 「ノートに会った事はないけどTVとかで知ってる人を書くことは出来るの?」

 TVから目を離したアンジェラは僕を見る。相変わらず白のビキニの姿で、TVやソファを出すくらいなら自分の服も出現させればいいのに、と思う。きっと羞恥心という感覚が人間のそれとは違うのだろう。

 「出来るわよ。名前と顔さえ判れば誰にだって通用する。なにか思いついたの?」

 うん、まあ、と言葉を濁す。

 「なにそれ。まあいいけど。そういえばもう塾の時間なんだっけ?」

 「うん。出かけてくるけど、君は?」

 「一緒についてっていいの?」

 「いや、だめに決まってる」

 「なら留守番。いってらっしゃい」

 ビキニの女性に塾に来られても困る。

 「いってきます」

 「大変ね、塾の講師も」

 今の塾に就職して1年ちょっとになる。大学在籍時からバイトで通っていた職場にそのまま居つくことになったが、バリバリの進学塾というわけでもなく、有名大学への合格ノルマがあるわけでもない職場はわりと気に入っている。ここにずっと居たいというわけでもないが、ずるずるとその場の空気に流されて漂うにはいい場所だ。いつまでそれが続くか、それは判らないのだが。

 似たような考えを持っているかは不明だが、そんな塾なので講師のほとんどは学校を定年退職した元教師が大半を占める。そんな中で20代の講師は僕と、僕と同じくらい覇気のないYという男のみ。

 Yは捕らえどころのない男だ。なにか目的があるようでもなく、かといって仕事が嫌いなわけでもないらしい。彼が休んだところを見た事がない。生徒に人気があるわけでもないが、影で悪口を叩かれることもない、そんな影の薄い存在だった。年齢が近いというだけの理由で休憩時にはなんとなく一緒になることが多い。Yに何の気なしに尋ねたことがある。

「もし、大金が手に入ったらどうする?」

 その時点で何らかの意図があったわけではなかった。ただ、こんな人物に突然巨額の富が降って湧いたようにもたらされたら、どうなってしまうのか、そのことに興味があった。

 お金なんて欲しくはない、けど困った人を助けるためのお金はいくらあっても困らないな。

 富を求めない、そんな人もいるのかと驚いた。逆に、そんなの嘘だろうという気持ちもあった。そんなこと言っていても本当に金を手にしたら私利私欲のために浪費散財するんだろう?と。

 帰宅した僕の顔になにかの決意が見て取れたのか、出かけるときと同じ姿勢でソファに寝そべっていたアンジェラが「ノート使うの?」と聞いた。

 うん。

 僕は小さく頷くとノートにペンを走らせた。

 「○○塾グループ会長の死と共にその財産の半分をYに相続させることで会長は節税になって助かり、Yは慌てふためくことになる」

 正直、なにかを達観したかのようなYの姿に苛立っていたのかもしれない。環境は人の性格をも変える。金が全てとは思わないが、金のせいで身を滅ぼすやつはいる。Yがどうなるのかいじわるしてやろう、死ぬことはないのだろうから。そう思った。

 塾の会長の顔と名前は、TVで立身出世の志として取り上げられたことがあり、それで知った。そのTV番組はアンジェラが出現させなければ僕が見ることはなかった。つまり、この下衆な願いを書くにいたった一因は彼女にもある。ちらと横目で見た彼女はそれをわかっているのかどうか、もう僕には興味なさげにTVをザッピングしている。

 
 会長の容態が悪化していることは塾会報からの情報で得た。しかし、急逝するとは考えていなかったし、それほど繁盛しているとは思えなかった彼の財産が莫大なものだったとは予想すらしていなかった。せいぜい数億の金がYの手に渡ってあたふたするだろう、くらいの想像しか僕の貧弱な頭では想定できず、少し面食らった。もっともYのほうが相当の混乱に陥ったのであろうが。

 「服を買いに行こうか」

 アンジェラに提案したが却下された。

 「そもそも、なんであたしがこんな姿なのかわかってないでしょ」

 「え、どうして?」

 「あたしがあなたの前に姿を出す直前、あなたはノートに下衆な願いを書いたわね。美人の全裸の女性を、って」

 恥ずかしながら、はい。

 「もともと天使に性別なんてないの。人間と違って生殖活動する必要ないんだから。この姿は、あなたが望んだもの。あたしの姿かたちはあなたの好みのタイプになってるでしょ?そういうこと」

 「どうにでも姿を変えられるのなら、お願いなのでもうちょっと露出を抑えてくれない?目のやり場に困るから」

 「自分で望んでおいて何よ。ふん。別に見たければ見ればいいじゃない。減るもんじゃなし」

 見てはいけないと判っているものをついつい見てしまう感情は男性諸氏なら理解していただけるだろうが、見なさいよ!とあけすけにされてしまえば、じゃあそうですか、では遠慮なく、とはいかない。アンジェラの思考回路自体が人間のそれとは違うのだろうと頭では理解していても、どこかで「どこ見てんのよ、この変態!」そう罵倒されるのではないかという恐怖が心の片隅に居座っている。男とは、そういうものだ。天使と同居したことのある男性が僕以外にいれば、の話だが。

 
 塾会長が死去したことで代替わりした息子は大規模な塾の統廃合を行った。
 僕が働いていた塾はそのあおりで閉校することになった。生徒や関係者は別の塾に割り振られたので、体勢に影響はない。ただ、僕はこれを機会に塾を辞めた。遺産相続したYがなぜか僕に多額の金を贈与していたのだ。弁護士を通じてそのことを知らされたとき、連絡しようにもYは消息不明になっていた。

 Yは塾を辞めた。遺産相続のゴタゴタで親族と揉め、無関係と思われた一介の塾講師への遺言でマスコミも彼を追い掛け回した。彼がどうなったのか、僕は知らない。ただ、風の噂でアメリカに渡ったとだけ聞いた。Yは幸せなのだろうか、それとも不幸なのだろうか。まだ、今は誰にもわからない。

 これはYの僕に対する嫌がらせだろうか?それともなにかしらの感謝の気持ちなのだろうか?僕がノートを使って彼を富豪にしたことをY本人が知るべくもない。Yがどんな意図であったにせよ、仕事を辞めた以外のどんな意味でも僕は幸せにも不幸にもなっていない。それでいいのだけれど。

 「ねえ、アンジェラ」

 「なに?ちょっと今この【世紀の大勝負!グランドキャニオンの綱渡り】っての見てるんだけど」

 TV画面では白人の男性が命綱なしで決死のチャレンジを始めようとしている。落ちたら間違いなく命はないだろう。ラーメン修行で怒鳴り散らされるのと同じくらい僕には興味のない番組だったが、何が面白いのだろう。

 「ノートに書いたことで間接的に僕が利益を得てしまったのはOKなの?」

 「問題なし」

 間髪入れずに即答する。その間も目はモニタに釘付けだ。

 「あなたはそれでなにかを得たとしても、なにかを失ったとしても体制に影響はないの。あなた、このチャレンジャー成功すると思う?」

 いままさに一歩目を踏み出した綱渡りのプロのことか。さあ、どうだろう?

 「彼がもし落ちるとするわね。右に落ちても左に落ちても死ぬわよね」

 どうやら、僕に対して話しているらしい。

 「うん、そこで左右は関係ないと思う。落ちるか落ちないか、じゃない?」

 「そう。でも人間のやっていることは結果的には落ちることでしかないの」

 僕にウインクしながら彼女はまた視線をTVに戻す。

 「成功、はないってこと?」

 「違う。成功ってこの場合なに?綱を渡りきったら現時点では目的達成するけど、それは今だけのこと。結局、人は皆死ぬのよ」

 それは言われなくても判ってる。

 「あなたがノートに願いを書いて、それによってなにかしら間接的に利益を得ても得なくても、全体のバランスは変わらない。綱の右から落ちても左から落ちても死ぬのと同じ。渡りきっても同じ。もっといえば尻込みして綱に足をかけなくても。人間のすることは本質的には無意味なのよ」

 「それじゃあ、最初から生きている価値はないってことなの?それはちょっと悲しいなあ」

 「人間の存在意義についての壮大な話題をちょっと悲しいで済ませるあなたも大概だけれど、それも違う。無意味と無は似てるようで全然違う。無意味かもしれないけれどしゃにむにもがく、あがいて動き回って、ああやっぱり無意味だったけど、これでいい、そう思えたらそれでいいじゃないの。なにもしないで虚無を待つよりよっぽど有意義よ」

 最後のほうはよく理解できなかったが、なんとなく彼女の話すことの意味は判るような気がした。じゃあなんで

 「ノートに直接的に利益を得る願いは書いちゃ駄目ってのは?」

 「え?」

 アンジェラはいたずらっ子のように僕に笑った。

 「そのほうが、面白いじゃない」






続く(かどうかは秘密)








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by telomerettaggg | 2014-04-12 22:17 | SO-03D

【漫才】映画化

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佐賀「はい、どうもー、静岡出身の佐賀と」

ジョン「ベネズエラ生まれ福岡育ちのジョンです」

佐賀「またこの舞台に立たせていただいたわけなんですけども」

ジョン「またおんなじ客がいる!暇なの?」

佐賀「そういうこと言うんじゃないよ。今日は二人の共通の趣味について話そうかと思うんですが」

ジョン「お前と共通?そんなものねえ」

佐賀「いきなり毒舌ですねえ、なんかあったんですか?」

ジョン「昨日映画を見に行ったんだけどさ、それがすごくつまんなくて」

佐賀「やつ当たりはいけないなあ。でもこれから話そうとしてたのが映画のことなんですよね」

ジョン「それより聞いてくれよ。その映画がさあ、頭がビデオカメラの男が出てきて映画を盗んじゃ駄目!って演技するだけのクソつまらない話でさ、俺すぐでてきちゃったよ」

佐賀「それ映画泥棒じゃないか!予告編の前に帰ってくるやつがあるかい!」

ジョン「それでさ、それなら自分たちで面白い映画を作ったらいいんじゃないかと思ってさ」

佐賀「作る?それは大変ですよ。お金もかかりますしね」

ジョン「そこは俺たちまがりなりにもテレビ業界にいるわけじゃん。テレビのスタッフ、いやスタッフゥ~を使えば解決するわ」

佐賀「人の持ちネタ真顔でパクるんじゃねえ!」

ジョン「でも、いいだろ。テレビドラマが映画化することなんてよくあることだし」

佐賀「それは、まあそうですね」

ジョン「だいたいさ、どんな番組でも頭に劇場版ってつければそれっぽくなるんだよ」

佐賀「言いましたね。たとえば?」

ジョン「じゃあ、お前が 劇場版 って言ってくれよ。俺がその後にいい感じの番組名を怒鳴るから」

佐賀「わかりました。じゃあいきますよ。 劇場版!」

ジョン「水戸黄門!」

佐賀「あ、いい感じですね。時代劇は映画にしやすいですしね。じゃあ次」

「劇場版!」「ガキの使いやあらへんで!」

「劇場版!」「怪傑えみちゃんねる!」

「劇場版!」「火曜サスペンス劇場!」

佐賀「ちょっと待て」

ジョン「なんだよ」

佐賀「劇場版って言ってるのに最後にも劇場って言ってるし」

ジョン「でも、火曜サスペンス劇場って劇場って言ってるくせに劇場化してないじゃん。このさい映画化しようぜ」

佐賀「お、おう。なんかもやもやするけど言いたいことは判らないでもないです」

ジョン「あとさ、最後に ザ・ムービー!ってつけてもいいんだぜ」

佐賀「そうですね。踊る大捜査線ザ・ムービーとかありますからね」

ジョン「じゃあ、それ言ってみよう。やること判るな?」

佐賀「あ、はい。僕がザ・ムービーって言えばいいんですね」

ジョン「タモリ倶楽部!」「ザ・ムービー!」

佐賀「タモリさん普段どおり流浪の番組作ってそうですね」

ジョン「エキサイティングナイター」「ザ・ムービー!  っておい!」

ジョン「なんだよ?」

佐賀「ナイター・・・って野球だよな?」

ジョン「それがなにか?」

佐賀「野球をどうやって映画化するんだよ?」

ジョン「馬鹿、野球は筋書きのないドラマなんだぞ」

佐賀「それはわかりますけど、なにか事件でも起こるんですか?」

ジョン「いや、野球を生放送でスクリーンに上映する」

佐賀「それただのパブリックビューイングじゃねえか!」

ジョン「これはなしか」

佐賀「当たり前ですよ」

ジョン「次は自信作だ。行くぞ。三分クッキング!」

佐賀「ザ・ムービー!……どこが?」

ジョン「番組放送中に殺人事件が起こるんだよ」

佐賀「それはちょっとおもしろそう」

ジョン「もう内容も考えてるから予告編だけでも聞いてくれよ」

佐賀「わかりました……」

ジョン「さあ始まりました三分クッキング。今日のメニューは流し素麺の装置を使って小松菜のおひたしとキムチを流します」

佐賀「奇抜なメニューですね」

ジョン「キムチを食べた出演者の一人が突然苦しみだしてその場に倒れる!騒然とする現場!やってきた刑事が叫ぶ。どうして現場にキムチが流れるんだ!」

佐賀「織田裕二じゃねえか!血じゃくてキムチて」

ジョン「別の刑事が叫ぶ!小松菜にかけて!」

佐賀「はは~ん、金田一少年の事件簿ですね。じっちゃんの名にかけて、ですか?」

ジョン「小松菜に胡麻醤油をかけて!」

佐賀「食おうとしてんのか!殺人現場だぞ!」

ジョン「犯人は……キューピー、お前だ!(声色を変えて)僕が犯人です……」

佐賀「急展開すぎるだろ!」

ジョン「だって三分クッキングだぜ」

佐賀「え?」

ジョン「上映時間三分に決まってるだろ」

佐賀「予告編じゃなくて本編じゃねえか!」

ジョン「だめ?」

佐賀「短すぎるでしょ。あと料理を食って人が死んだらスポンサーいなくなっちゃいます。一社提供だから番組終了しちゃいます」

ジョン「そっかー、じゃあ次ね」

佐賀「まだあるんですか!?」

ジョン「アニメを実写映画化しよう。キャシャーンやヤッターマンやガッチャマンだって映画化したんだぜ」

佐賀「微妙にコケたやつばかり引き合いに出しましたね」

ジョン「もっと有名名作アニメにすれば大丈夫だって」

佐賀「例えばどんな?」

ジョン「劇場版アルプスの少女ハイジ」

佐賀「あ、それはちょっと見てみたいかも。でも配役は大事ですよ?」

ジョン「まかせとけ。まず主役のハイジは芦田愛菜」

佐賀「イメージが違うけど、名子役ですもんね
芦田愛菜ちゃん

ジョン「ペーターは岡田将生、クララは堀北真希」

佐賀「なんかそっちでラブストーリーが生まれそうですね」

ジョン「おじいさんのおんじ役は
北大路 欣也、そしてもっとも重要な役は」

佐賀「あれ、もうメインキャスト出てませんか?」

ジョン「何言ってんの、セントバーナードのヨーゼフ役がまだでしょうが」

佐賀「犬は借りてくるだけじゃ」

ジョン「それでは発表します。ヨーゼフ役は、石破茂です!」

佐賀「政治家じゃねえか!」

ジョン「でもあの人犬っぽいだろ」

佐賀「そりゃそうだけど、どっちかというとブルドッグ系だろ」

ジョン
(メモをとる仕草をしながら)「佐賀君は石破茂をブルドッグ似だと言った、と」

佐賀「メモるな。そしてチクるな!」

ジョン(突然ハイジの演技を始める)「おんじ大変!ヨーゼフがユキちゃんを食べちゃったの!」

佐賀「食べるな!」

ジョン(石破茂のようなおっさんの演技で)「ラムは旨いなあ」

佐賀「ユキちゃん山羊だからラムじゃねえよ!」

ジョン「そういう問題じゃねえよ!」

佐賀「お前が始めたんだろうが!」

ジョン「クララが立った!クララが立った!ペーターも勃った!おんじも勃った!」

佐賀「下ネタ入れんじゃねえ!」(佐賀、ジョンに飛び蹴りを入れる)

ジョン「じゃあ、最後ね」

佐賀(ため息をつきながら)「まだあるんですか?……まあここまで来たんだから聞きますよ」

ジョン「フランダースの犬 ザ・ムービー!」

佐賀「宮崎駿、好きなんですね」

ジョン「主役のネロは、SAYAKA」

佐賀「いやな予感してきたよ。ネロは男の子じゃないですか?」

ジョン「そこは奇抜な抜擢で脚光を浴びるんだよ。そして……パトラッシュはダルビッシュ」

佐賀「もう問題が起こる予感しかしねえよ!お前最後の語感だけで決めただろ!」

ジョン「これがルーベンスの絵か。(女っぽい甲高い声で)ダル、じゃなかったパトラッシュ、なんだか私、眠くなって来ちゃった……(男の声に戻り)じゃああそこのホテルに……」

佐賀「やっぱ下ネタじゃねえか!」(佐賀、ジョンにパロスペシャルをかける)

ジョン「ごめん!悪かった」

佐賀「へえ、珍しいですね、ジョンが謝るなんて」

ジョン「だからもう一回だけやらせて?ね?」

佐賀「これが最後ですよ」

ジョン「やった!じゃあ最後は、劇場版ウサギと亀」

佐賀「とうとう日本昔話になっちゃった」

ジョン「ウサギ役は酒井のり・・・(佐賀にすごい目で睨まれて)違った、中村うさぎ」

佐賀「作家兼コメンテータじゃん」

ジョン「うさぎはね、寂しいと死んじゃうんだよ」

佐賀「結局そのセリフ言うのかよ!しかもあんた一度死に掛けてるじゃん!」

ジョン「亀はやっぱりスーパースターじゃないとね」

佐賀「え、誰?」

ジョン「追いかける立場の亀にふさわしい名セリフの持ち主ときたらこの人しかいない。木村拓哉」

佐賀「もういいよ」(先にセンターマイクを去る)

ジョン(木村拓哉のモノマネで)「ちょ 待てよ」

(二人で)「どうも、ありがとうございました~」
















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by telomerettaggg | 2014-03-28 19:48 | CANON LENS 50/1.4

偽善もまた善

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GUESS NOTEの続きです。未読の方は読んでからこちらを読むと話が繋がります。





 昔の日本人が考えた地獄には「賽の河原」というものがあるらしい。親より早く死んだ子供が行く地獄だそうだ。そこでは子供たちが延々と石を積み上げている。全て完成しそうになると鬼がやってきてそれを全部壊してしまう。子供たちは泣きながらまた石を積むことになる。

 親より早く死ぬことがどれだけの罪なのかはさておき、初めから無駄だと判っているのにやらなければならない苦痛とはいかばかりか、そんな地獄には行きたくないと思う。ロシアかどこかの囚人の労働に、延々と穴を掘って、またそれを埋めて、また穴を掘ってを繰り返す拷問のような作業があるそうだが、ずっとやっていると人は気が狂ってしまうという。無意味な労働は人をも狂わす。


 窓枠に腰掛けた女を見て何の脈略もないそんな思考が一瞬よぎったのは何の意味があったのか、僕にはよく判らない。ただ、人はあまりにもありえないシチュエーションにでくわすと、とっさに反応できないことだけは実感できた。


 銀髪の女というものを初めて目にした。その髪は長く、腰まで届くほどだ。

 長い脚や、見るものすべてを少し小ばかにしたような切れ長の目は、あとから気づいたことで、そのとき目を惹かれたのは、黒い右目とはしばみ色の左目だった。


 「ちょっと、あなた誰ですか?」


 状況をいぶかしむ言葉が出たのはまるまる10秒以上経ってからだった。

 そもそも、ここは5階だ。彼女が腰掛けているのはその窓で、隣とベランダで繋がっているわけでもない。文字通り、降って沸いたような彼女の出現に僕は混乱していた。


 「知らないわ、そんなこと」


 僕をおちょくっているのだろう、と思った。頭のおかしい女だとしても、物理的にありえない状況で出現した挙句、わけのわからない答えだ。


 「カッパ橋ってなんですか、よく判らないけど、早く出てってください」


 そう言うしかなかった。女はおかしそうに髪を揺らしながら答えた。


 「だいたい状況から察しがつくでしょ。あなたの持ってるそのノート、それを見守るものよ」


 「あ、悪魔?」


 「こんな可憐な悪魔がいるものですか。そうねえ、天使だと思いなさいよ」


 自らを可憐と言う存在など信じたくはなかったが、どこかに人間とは別個の生き物らしい、という印象はぬぐえなかった。それくらい超然としていた。しかし、天使ではない?


 「あなたが思う天使の定義って何?それとはきっと違うけど、たぶんそんな感じの存在になるんでしょうね」


 僕は深呼吸して現状を把握しようと努めた。冷静に考えれば、信じがたいが、この人?はこの「ゲスノート」に関係しているのは疑いようがない。


 「天使でないとするなら、いったいなんなんですか?人間ではないってこと?」


 「人間じゃないわね。人間は5階の窓に突然現れたりはしないでしょう」


 僕はとりあえず今一番知りたい質問を投げかけることにした。


 「それじゃ、なんのために僕の前に?」


 女は心底僕を馬鹿にしたような目つきで脚を組み替えがら答えた。


 「決まってるじゃない、新しいノートの持ち主を見守るためよ。わからないことがあったらなんでも聞いてね。あ、今落としたカップはカッパ橋で買ったんだけど、代金はあなたの口座から支払ったからね」


 意味は判らないものの、床に転がったカップを横目に僕はPCを開いた。ネットで口座残高を調べると、果たして、数百円の支払い履歴が残っていた。もちろん、僕には覚えのない支出だった。

 

 「ルール違反の願いをノートに書くたびにあなたの頭に落ちてくるよ。少しずつ大きくなるから覚悟しといてね」


 楽しそうな彼女の言葉に、勘弁してくれよ……と心の中で呟きながらとりあえず疑問を投げかけた。名前は?このノートって一体何?


 「名前なんてどうでもいいけど、そうねえ、アンジェラとでも呼んでもらおうかしら」


 アキ?まあそれはどうでもいい。


 「あなたが下衆な願いを書けばそれが叶う。あたしはそれを見ているだけ。助言はするし、質問にはできるだけ答えるけど、それだけの存在」


 ものすごく気になっていた質問をする。


 「あの、なぜ、水着なんです?」


 なぜか彼女、アンジェラは白のビキニ姿だった。ワンルームの、わびしい独身生活の部屋にその姿は非常に違和感があった。不釣合いを通り越している。ファーストフードでバイトしているのに行き帰りは運転手つきのロールスロイスみたいな不自然さを帯びている。


 「え、いいじゃない。休暇くらいどんな格好でもいいでしょう?」


 ほとんど全裸に近い姿に僕は直視できない。ある意味、さきほどゲスノートに書き込んだ願いは叶ってると言えなくもない。休暇ってなに?僕の顔にはそん疑問が思いっきり出ていたのか、大まかな説明を聞かされることになる。


 いい?まず神の存在を信じる?まあ、信じてようがそうでなかろうがどうでもいいんだけど、人が神と呼ぶような、そんな存在はいるの。あなたたちが思っているような形ではないけれど。人間とは別個の生命体よ。その一部があたしだし、あたしが神そのものとも言えるし、そうではないとも言える。人の考える概念とは全く違うと思って。


 とても大きな、そうね、銀河系を覆いつくすほどの、無数の生命体が集合となってあたしたちは存在している。それを神と呼びたければそうすればいいし、その一部のあたしを天使と呼ぶのならそれでもいいわ。そんな神の気まぐれがノートを生み出したの。あなたがそれを使うもよし、放棄するもよし、それで神の怒りを買うこともなければ世の中に大きな動きを産むこともない、そんなもの。だから気楽にやりましょうよ。


 「休暇、ってなに?」


 「無数の集合体がずっと一つの存在でいることはとても強いけれど、それは均一化を生み出すと同時に脆さも出てくるって事。なにかひとつの致命的なことで、全体を殺すことにもなりかねない。そんな事態を避けるため、集合体から分離して新たな意義を得る、それがあたしのようなものだと思って。判らなかったら別にいいのよ。だからあたしのことを天使だと考えてもらって構わない」


 言っていることの意味はよく判らなかったが、要するに、このノートを持っている限り、僕のそばにいるらしい。休暇だからビキニであることの説明にはなってないと思う。多分に彼女の趣味なのだろう。そう考えることにした。


 「そもそも、このノートがこんなに面倒なのはどうして?単純に幸せになる願いを叶えるってだけでいいんじゃ」


 「不幸な人と幸せになる人のバランスを取るためね。それもまた受け取り方によってどうにでもなるのだけれど。それにしても殺風景な部屋ね。お客様にお茶くらいだしなさいよ」


 普段友人すら招いたことのない部屋に現れたお客様が水着の天使とは。

 たしかに、僕の部屋には何もない。机と椅子、それにPCのほかにはなにもない。TVは見ない。塾には行っているが学校に通わなくなって何年経つだろうか、一人暮らしの部屋とはいえ、おおよそ趣味といえるものがない僕にはこの部屋が過しやすかった。が、アンジェラの要求に応じてコーヒーを淹れる。


 幸不幸のバランスを取る。それ自体はわからなくもない。ある意味奇跡と呼べる手法で幸運なものだけを出し続ければ世の中の均衡は崩れてしまうだろう。


 「じゃあ、極端な話誰かに一億円あげて幸せにしようとしたら、どこかで同じ額を失って不幸になるってことだよね?それは判る。でもそれも受け取り方によるってのは?」


 「なにを幸運と感じて、なにを不幸と思うのか、そんなことは誰にもわからないわ。お金を貰って不幸になったと感じる人もいれば、ホームレスなのに心の平安を得る人もいる。そんなことは当事者でない限り誰にも判らないってこと。だから、ノートの条件にあることは文章どおりに受け取る必要ないし、そんなことは不可能だってことよ」


 「ノートには、不幸になる人、幸せになる人、双方一人ずつでなければならないとあるけど、じゃあ、どちらも結果的に幸せに感じたとしたらどうする?あなたが始めに書いた向かいのマンションのおばあちゃんは幸せになったとするわね。じゃあ、下衆な行為の対象となった若者は?本当に不幸なのかしら。階段を昇り降りすることで少し健康になるかもしれない。そのことを若者は幸せに感じるかもしれない。

 もっと言えば、エレベータに貼紙をしにきた業者は?定時を越えて余計な仕事を命じられたことで少し不幸かもしれないし、不況の中仕事が出来て幸運に感じているかもしれない。第三者に幸不幸の可能性を与えた時点でルールには反しているけれど、それにたいしての罰則はなにもないの。だから、あなたは頭に盥が落ちてくるリスクを負うけれど、あとは自由にやればいいわ。失敗するたびに盥は大きくなるし、代金はあなた負担になるけどね」


 目からうろこが落ちた気がした。

 なにを幸せか、それとも不幸と感じるかは人次第だ。それくらいのことは理解しているつもりでいた。しかし、エレベータ業者のことは頭からすっぽり抜け落ちていた。そうなのだ、そこにも人は介在していたのだ。


 「じゃあ、僕のやることは一体なに?誰かを幸せにすること?」


 「あなたのやるべきことなんて別にないわよ」

 僕の淹れたコーヒーを湯気に目をしかめながら、それでも満足げに飲みながらこともなげにアンジェラは言う。


 「そのノートで何かを叶えたからって世の中は何も変わらないし、世界が平和になるわけでもないわ。それでも無駄が無ではないことを理解できれば、あなたにとってそれは有益なものになるかもしれない。それだけのこと。あとは、どんなことを願うか、その顛末を見せてあたしを楽しませて。個の独自性を獲得することであたしは自分の存在意義を得ることができるようになるわ。あなたが飽きてノートを手放すまでがあたしの休暇、つまり分離した個としての存在でいられる時間なんだから。せいぜい長いこと楽しんでよ」


 無駄は無ではない、の意味はよく理解できない。けれど、憤懣を溜め込んでモラトリアム期間だと自分を慰めるよりもなにかのチャンスを得たのだ、と思う。


 鬼はなんのために子供が積み上げた石を崩すようなことをするのか。

 そこに意味を求めてはならず、しかし積み上げたこと事態に意義を見出せるようになることが、僕にとってなにか得がたいものを獲得できるような、そんな気がした。


 鬼と呼ぶにはあまりにも美しい肢体をさらす天使の存在を前に、僕はそんなことを思った。






 続く(らしいよ)








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by telomerettaggg | 2014-03-23 02:30 | summaron 35/3.5

The Joshua Tree

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 運命は残酷だ。
 
 ある人はそう言う。だが俺はそうは思わない。運命自体はただそこに転がっているもの、避けては通れない絨毯のようなものであって、それを残酷だと感じるか、幸運だと思うかは実際に通った者にしかわからない。
 数多くの選択肢を無意識に、または意識的に選び、まだ見ぬ未来を紡いで得たものが本当に自分にとって最高の結果であったかどうか、そんなことは誰にも結論を出せない。

 文字通り、降って湧いたような莫大な遺産相続人になり、豪華客船で大西洋をクルーズしている俺は、はたから見ればたいした努力もせず大金持ちになった成金の客にしか見えないだろう。

 しかし俺の心中はそれとは真逆だった。
 相続のゴタゴタで親族と揉めに揉め、心身共に疲れ切った俺はそれらから逃げるように追っ手のいない船へと身を隠した。大海原で心からはしゃぐクルーズ客を眺めながら、いまここで手すりを越えて海の藻屑となってしまえばどれだけ心が安らぐだろうか。そんなことばかりを考え続けた。しかし、死ぬ気にはなれなかった。

 思えば、一介の塾講師だった俺には将来の展望こそなかったものの、生活し、好きな映画を観て、たまに好きな音楽のCDを買うだけの収入はあった。それ以上のことは望んでもいなかったのに、いきなり一生遊んで暮らせるだけの遺産が転がり込んでも、当惑するだけで遣い道などなかったのだ。親族の欲深な叔母が言うとおり、相続放棄してしまえばよかったのだ。それをしなかったのは、講師の同僚がふとしたときに尋ねた一言にあった。
 「もし、君にいきなり大金が入ったらどうする?」

 どういった意図でそんな質問をするのかわからなかった。同じ歳の、いい意味で小賢しいその同僚とはそれほど仲がいいわけでもなかったが、それでも少し考えた末堪えた。
 「俺は特にお金が欲しくもないけど、困った人を助けられるくらいのお金があったらいいな、と思うことはあるよ」

 同僚は意外そうな顔をして俺を見ていた。
 遺産相続の話が持ち上がったのはそれから程なくしてだが、別に同僚がなにかをしたわけでもあるまい。結果として泥沼の裁判沙汰になり、死ぬことまで考えることになったわけだから。それでも、お金自体に罪があるわけではない。親族にはそれなりの財産分与することで決着がついた。それでも俺が使いきれないほどの金が残った。



 客船のデッキで、俺は身を投げることはなかったが、代わりに瓶を投げた。
 中には俺の連絡先が書いてある。この瓶を拾った人は連絡を欲しい。自分と友達になって欲しい、といった旨の文章を英語でしたためた紙片だ。

 どこかに届くとも考えていなかった。俺の代わりに海の藻屑になるか、永遠に海をさまよった挙句、ただのゴミとなってしまうほうが確率としてははるかに高い。
 22歳にもなる俺がこんな恥ずかしいことをしたのは、その船で出会ったとある老人の勧めによるものだが、その経緯は省く。このあと急ぎの用事あるのだ。その前に記録を兼ねて取り急ぎタイプしている。

 先を急ごう。そんなわけで俺は数ヶ月ぶりに日本に帰って来た。
 豪華客船の旅は楽しくないわけでもなかったけれど、また世俗の喧騒に帰って来た憂鬱と、ほかにもうるさい親族がやってくるのではないかという面倒さから、外界との接触をシャットアウトし、ひたすら部屋での娯楽に徹した。DVDで映画を観たり音楽を聴いたり。船で投げた瓶のことは頭から消えていた。

 帰宅後、3ヶ月ほど経った夏の日、一通のメールがPCに届いた。
 hello,my name is annから始まる全文英語のその差出人に全く心当たりがなかった。ただの迷惑メールだろうと反射的に削除しようとしたが、文章には不審なURLもリンク先もない。テンプレート通りの文とは違うものを感じた俺は、メールを読んだ。
 驚いたことに、俺が投げた瓶を拾った人からのメールだった。
 塾講師などよくやっていたなと呆れられるくらい、中学生英語のレベルしか解さない俺だが、翻訳サイトを使いながら読んだ「アン」からのメールには、俺と同じ22歳の女性であること、サンタモニカの海岸で瓶を拾ったこと、連絡先に書いてあったメールアドレスに通じるかなと半信半疑でメールを綴ったことなどがしたためられていた。

 どんな天の配剤で大西洋に投じた瓶がカリフォルニアの海岸に届いたのかはわからない。それでも返事が来たことに俺は狂喜した。さっそく返信した。

 拾ってくれてありがとう。から始まり自己紹介、日本に住んでいること、同じ年齢であること、もしよかったらメールをやりとりしたい、そんな内容を英文に翻訳して送信した。1週間後、アンからの返信が届いた。自分の知らない世界の話を聞かせて欲しい、私でよかったら喜んで友達になりたい、との内容で、そこからメールのやり取りが始まった。

 彼女はあまり自分の身の上を話さない。
 こちらからあえて聞く事もないが、文章の端々から想像するに、あまり裕福な暮らしとはいえないようだ。カリフォルニアのダウンタウンがどんな生活レベルなのか、日本に住む俺には理解する術もない。が、高校を卒業したあとは街のパン屋で働きながら、週末ネットカフェに行って知らない町のことを眺めるのが唯一の楽しみなのだそうだ。自分の部屋にはネットもなく、道理で返信が週末の似た時間になるなとは思っていたが、納得がいった。

 充分な教育を受けていないのか、彼女の歴史認識は俺の知っているそれとはちょっとずれていた。たとえば、自らの国を指すとき、ステイツではなく「American Empire」と書く。米帝とはいかにも大仰であるし、世界を律する存在としての驕りがあるのかとも思うが、特に追求することもなかった。性格なのかもしれないが、得てしてアメリカ人は自分の住んでいる場所を世界地図で指せ、と言われてもよくわからない人が多いという。日本がどこにあるかなど意識すらしてないのではないだろうか。彼女の認識では韓国と北朝鮮は一つの国になっているそうだし、ロシアとその周辺国もまとめて「連邦」になっているらしい。中国もその中の一つなのだそうだ。笑いをこらえるのに必死だったが、別にどうという事はない。認識上の国境と実際が違っていたからといってなにか困ることがあるわけでもない。

 瓶を拾ったサンタモニカの海岸は彼女のお気に入りの場所だそうだ。
 厳密には、海岸通にある一本の木が、とても大事な場所なのだという。その通りには砂漠に生えるジョシュアツリーが植えられている。同名の国立公園が南カリフォルニアにあることを検索して知ったが、海沿いに植林しても大丈夫なのだろうか。俺には判らなかったが、枯れてはいないそうなので平気なのだろう。彼女がなぜその木を気に入っているのか、その理由は判然としなかったが、数ヶ月メールフレンドを続け、打ち解けてきた頃、なんでもない風を装って、打ち明けられた。
 その木のそばには3人が座れるベンチがある。その下に、生後間もないアンは捨てられていた。誕生日もわからないので、発見され、孤児院に連れられたその日が彼女の誕生日になった。

 そのことを知ったとき、俺には返す言葉がなかった。そのことを特に恨むでもなく、なんでもなさそうにメールした彼女の心中はいかほどだっただろうか。
 ジョシュアツリーは成長が遅い。一年に10数センチしか伸びない。しかし、その両手を広げたような姿は神に祈るヨシュアのようだ、と旅人が名づけたのだという。その木の下に捨てられたアンは神の恵みを受けられたのだろうか?

 「自分の生活をもし昔に戻ってやり直せるとしたら、どうしたい?」

 そんなことを彼女に尋ねたことがある。返事はこうだった。

 「そういうのを含めて今のあたしがあるから。でも孤児院じゃくて、どこかのセレブがあたしを拾ってくれていたらどうなっただろう、って考えることはある」

 サンタモニカ。彼女を知るまで地名の一つでしかなかったその土地には有数の別荘地がある。そんなことを夢想するくらい許されてもいいだろう。
 名声はないが、金はある。そんな俺が彼女にいくばくかの金を送ったらどうなるだろう。そんなことも考えた。彼女の生活を激変できるだけの金銭が俺にはある。だがしかし、そんなことをアンが喜ぶとも思えなかった。ダウンタウンの狭い部屋とパン屋、たまにネットカフェ。ささやかながらそんな生活が幸せだと言う彼女に俺がしてやれることはなかった。

 それでも、いつの間にか彼女に一度会ってみたい、と考える俺がいた。
 不思議なことに、やましい気持ちはひとかけらもなかった。同じ歳の、メールに添付された彼女は笑顔が素敵な赤毛の女の子だったが、恋愛感情が微塵も沸かなかったのはどういうことなのだろう。それよりもむしろ、アンの幸せを願い、彼女のことを守ってやりたい、そんな親心にも似た感情が押し寄せた。

 会いに行きたい。そんなメールを送ったのは2月の初めだった。
 はじめは旅費を使って来てもらうのは申し訳ない、と控えめだったが、そんなことは問題ない、と説得するにつれ、ようやく了承を得た俺はすぐさまカリフォルニアへと飛んだ。自分の住んでいる部屋は恥ずかしいくらい汚いのでという彼女の言い訳も受け入れ、待ち合わせ場所に選んだのはサンタモニカのジョシュアツリーだった。
 「あたしの誕生日のちょうどひと月前ね」

 彼女は3月の中旬にそこに置かれたのだ。俺は何も返せなかった。ただ、楽しみにしている、とだけメールした。

 約束した場所、日時、俺はジョシュアツリーのベンチに座った。

 彼女は現れなかった。

 困窮した彼女は自分の部屋にはもちろん、携帯電話も持っていなかった。
 連絡先はいつものメールアドレスだったが、ベンチから送信したメールはあて先不明で戻ってきた。俺は一体なにをしたかったのだろう。なにを望んでいたのだろうか。わざわざアメリカくんだりまでやってきて、一人でいい気になって、そして約束をすっぽかされた。これほど惨めなことはない。

 それでも、日が沈む頃まで待って、その場を後にした。
 彼女の好きなそのジョシュアツリーに赤い布を巻いた。やけくそで書いた、「goodbye,ann」の文字を添えて。彼女がメールで書いていたほど、その木は大きくなかった。10m以上あるのよ!と誇らしげに言ってたくせに、実際のその木は植樹されたばかりの植木そのものだった。結局いろんなことが嘘だったんだ。
 失望した俺はそのまま日本へ帰った。来る時に考えていた観光や楽しい期待は跡形もなく消し去っていた。

 帰宅した俺のPCには、果たして、彼女からのメールが届いていた。
 約束の日、約束の時間にジョシュアツリーに行ったけれど、誰もいなかった、無事に着いたのでしょうか?と書かれていた。
 俺はうんざりした。一体何の目的でそこまで俺をたばかる必要があるのか。おもしろ半分に東洋のジャップをからかってやろうと考えたのか。

 「ちゃんとその場所に行った。その証拠に赤い布をジョシュアツリーに巻いた」

 メールにはそう書いて送った。恨み言を入れたらなんだか自分が余計に惨めになる気がしたのだ。

 週末の、彼女がいつもメールをくれるのと同じ時間に返事は届いた。

 「サヨナラってどういうこと?それにあの赤い布はものすごく薄汚れてたし、とても上の枝に巻かれていて取るのに苦労した。なんだか、ずっと前からそこにあったみたい。どうやって巻いたの?」

 何かが腑に落ちなかった。薄暗い部屋の中、モニタの照明に照らされた俺はそのまま考え続けた。結果、彼女に一通のメールを送った。

 ほとんど夢か幻か、一週間とはこれほど長いものなのか、まんじりともせずPCの前で待ち続けた。そして、彼女の返信を読んで、俺は全てを理解した。



 俺は、こう尋ねた。

 「正直に答えて欲しい。今は西暦何年?」

 


 ずれていた。彼女は俺より22年も先の未来を生きていた。
 そう理解すると、いろんなことに得心がいく。歴史認識がずれてると感じたこと。
 小さなジョシュアツリー。成長したジョシュアツリー。
 サンタモニカのベンチで携帯から送ったメールがあて先不明になったこと。

 最後のことはよくわからない。そもそもどんな奇跡が彼女とのメールを可能にしたのか、そんなことを理屈で説明できるわけがない。ただ、いろんな条件が重なったほんのはずみで、彼女と知り合えた。まだ生まれていないアンに出会えた。いや、実際にその姿を見てはいないのだけれど、その存在はひしひしと感じられた。

 俺は決意した。それがいい結果に繋がるのか、そんなことは判らない。
 ただ、できることをしようと思った。その場からネットで航空チケットの予約を取った。
 3月の明日、サンタモニカのジョシュアツリーの下。そこで彼女に出会える。
 生まれたばかりの、彼女は笑ってくれるだろうか?
 大きくなった彼女に、22歳の俺は君とメールしたんだよ、と言ったらどんな顔をするだろうか?

 運命なんて先でどう転ぶかわからない。
 俺のこの先などそれほど気にもしていないが、女の子一人を育ててあげるくらいの金はある。充分すぎるほどある。世界平和など望むほど心は広くない。でも、自分の好きな人の幸せを望むくらいの自由は運命にもあっていいんじゃないかと思う。

 出発の時間がもうすぐだ。







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by telomerettaggg | 2014-03-20 06:05 | summaron 35/3.5

コント「北風と太陽」

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   舞台中央に2mほどの地球の書割が置いてある。その下手に赤い布をマントのように羽織った女がいる。頭には「太陽」とかかれた帽子を被っている。女はエアギターをかき鳴らしながらオリジナルの歌を歌っている。

女「この素晴らしい地球に生まれて~ 美しい花があるのに~ 原発はいらないのよ~♪」

   舞台上手から男が登場する。灰色の布をマントのように羽織っており、頭には「風」とかかれた帽子を被っている。地球の書割の上手側をせわしなく終始歩いている。

男「太陽のくせにすごい自己矛盾を抱えた歌を歌ってるなあ。あんたの体内原子炉みたいなものだよねえ?」

   歌うのをやめた女が男に気づく。

女「北風さんじゃん!一緒に原発反対のデモしようよ!」

   男=北風はさらに呆れた表情をする。この間も絶えず歩き回っている。

北風「遠慮しておくよ……要するに、暇なんだね、太陽も」

   女=太陽は顔の前で右手人差し指を左右に振りながら北風に言う。

太陽「駄目!陽子って呼んでくれなきゃ!」

北風「太陽に性別ないでしょうに」

   太陽、頬に両手をあてながら

太陽「あーん、顔が火照ってきちゃった」

北風「そりゃ、燃えてるから」

太陽「ところで、ちょっとせわしなく動きすぎじゃないの?」

北風「だって、風だから止まると消えちゃうしね」

太陽「落ち着かないから微風になってくんない」

   北風、地球の書割の上手付近に立ち止まり左手だけゆっくり動かす。

北風「これでいいかな?」

太陽「それでいいわ。……それにしても、暇ね」

北風「太陽が活発になられても地球の人たち困っちゃうし」

   太陽、北風の言葉は無視する。

太陽「ねえ、なんかゲームやんない?」

北風「ゲームと言ってもねえ。あ、神経衰弱でもする?」

   北風、懐からトランプを取り出す。

太陽「ダメダメ、トランプを伏せて置いてもあなた風だからすぐどこかに飛ばしちゃうじゃないの」

北風「そうだった。それに太陽が触ったら燃えちゃうしね」

   太陽、右手親指で鼻の下を右から左へこする仕草をしながら

太陽「あたいに触れたら火傷するよ」

北風「いや、燃えちゃうからね?下手したらその場で蒸発しちゃうからね?」

太陽「じゃあ、なにしようか。ここでずっと地球を見てるだけなのも退屈しちゃう」

   二人、地球を見つめる。北風、地球の中東あたりを指差す。

北風「じゃあ、あのへんに人が一人いるよね」

太陽「あ、砂漠あたりを一人で歩いている人?迷っちゃったのかな?」

北風「旅人みたいだね。あの人が着ているマントをどっちが先に脱がせることが出来るか、勝負しようよ」

太陽「いいわねえ。じゃあ、あたしからいくよ」

   太陽、両手を中東付近に伸ばす。

北風「逆にサングラスして帽子まで被っちゃったよ」

太陽「陽射し強くしすぎちゃったかしらね」

北風「あのへんって暑い国だし、マント脱ぐより日差しを避けるためには逆に脱げないよね」

太陽「じゃあ、次は北風さんの番ね」

   北風、自分のマントを頭から被る。マントの下でごくわずかに動いている。

太陽「なにしてるの?」

   北風、マントから頭だけ出す。

北風「凪にしてる」

太陽「あっ、あの旅人マント脱いだ!」

北風「僕の勝ちね」

太陽「ずるい!北風なんだから盛大に吹かなきゃだめでしょうよ!」

北風「吹くも吹かないも僕の自由。そしたら勝手に太陽の日差しがほどよくなって旅人も安心してマントを脱ぐよ」

太陽「もう~。じゃあ2回戦ね」

北風「まだやるの?」

   太陽、地球の書割から少し離れた場所を指差す。

太陽「じゃあ、次はあの人。白い厚ぼったい服を着たあの人を裸にしたほうが勝ちね」

   北風、太陽の指差すほうを見ながら少し驚く。

北風「いやあれはだめでしょ!」

太陽「なんでよ~?」

北風「だってあれ、宇宙飛行士だから」

太陽「そうなの?変なヘルメットかぶってるなあと思ったけど」

北風「あれ脱がせたらあの人死んじゃうから!」

太陽「なんだ~残念」

北風「そもそも、空気がないから僕はあそこで風を吹かせられないし」

太陽「あ、そうか」

北風「もっと身も蓋もない話していい?」

北風「なあに?今日の陽子はいつもより可愛いねとか?」

北風「違うから!というか最近の君は黒点活動が活発ですから!」

   太陽、両手で顔を覆う。

太陽「酷い!人が気にしてることを!最近ファンデの乗りが悪くて困ってるのに!」

北風「人じゃないし!化粧とかできないでしょ!」

太陽「あたしも表参道とか歩いてみたい!渋谷の109とか行って「つけま」とか買ってみたい!」

   北風、太陽をとりなすように

北風「でもフレアの調子よさそうじゃない?すごく決まってるよ。コロナも流れるように後ろでまとまっていい感じ」

   太陽、北風の顔をじっと見つめて少し近寄る。

太陽「北風さん、優しい。あたし、北風さんのこと……」

   北風、太陽が全てを言う前に同じ距離下がる。

北風「駄目だって、それ以上近づいたら」

太陽「まるでハリネズミのジレンマみたいね、あたしたち」

北風「仕方ないよ。僕は君の活動によって存在してるからね」

北風「というより、僕は君と不可分の存在なんだけどね」

   北風の声に少しずつエコーがかかり、それと同時に彼は少しずつ上手側に移動する。

北風「ということは……もしかするとこれは太陽の独り言になるのかもしれない」

北風「もともと、初めから一人だったのかも」

   暗転5秒間。その間太陽は地球の書割の裏側にいる。北風は上手袖に姿を隠す。

太陽「北風さんどこ?どこにいるの?それとも……最初からあなたは存在してなかったの?」

   明転。地球の下手に立つ太陽、北風の姿はない。

太陽「わたしは気が狂ってるの?」

   地球の書割の裏から北風が飛び出す。

北風「なーんてね。ちゃんとここにいるって」

太陽「北風さん!」

   北風に駆け寄る太陽。北風は両手を前に出し必死に押し留めようとする。

北風「駄目だって~!!!!」

   太陽、北風に抱きつく。

北風「あ~あ」

   北風、マントを頭から被りその場に伏せる。

太陽「あっ!」


   幕が降りる。








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by telomerettaggg | 2014-03-19 04:18 | summaron 35/3.5

GUESS NOTE

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 空は明るく陽が差している。なのに僕の歩く路地は薄く靄がかかっている。
 誰が待つでもない帰路をとぼとぼと歩きながら、幸運でもなく、さりとて不運ともいえない人生を呪う。
 
 順風満帆とはいえないが、後ろ指刺されるようなことをした覚えもない。なのにふとした拍子に考えることといえば、僕の人生は果たしてこれでよかったのだろうか、ということばかり。そのことばかりが頭の中を巡る。
 何か事を成し遂げて目立ちたい欲求があるわけでもなく、しかしなにかやり遂げたい憤懣が澱のように溜まっていて、それが目の前の靄と同様、自分の目を曇らせている気がする。
 さっき塾で拾ったこのノート、誰かの忘れ物だったかもしれないのに持ってきてしまったのは、ちょっとしたいたずら心にすぎなかった。表紙に「NOTE」とそっけなく印刷されただけの、何の変哲もないノート。そこに持ち主が手書きで書き入れたらしい「GUESS」の文字。「ゲスノート」と読めばいいのだろうか。使っていた人間のセンスを疑う幼稚な駄洒落だ。

 部屋に着いた僕はやることもなく、そのノートを開いた。おそらく塾の授業で書き込んだ数式の類が書かれているだろうと予想していた。しかし全く違った。


※1このノートの所有者は想像するあらゆる下衆な行為を書き込むことで、その願いは現実のものとなる

 見開きの最初にそう書かれているのを読んだときもまだ、なにかの冗談の類だろうとしか思っていなかった。金釘流の、しかしはっきりとした意思を感じる太字で文字は記されている。さらにその下に書かれた文を読む。

※2所有者は下衆な行為によって誰かが幸福になるようにしなければならない

 意味が理解できない。誰が、何のためにこんなことを書いているのか。

※3下衆な行為によって幸福になる者は所有者であってはならない

※4下衆な行為を書き込むことで苦労する者、幸福になれる者は一人でなければならない
 必ずしも下衆な行為を受ける者と幸福になるものが同一である必要はないが、そのどちらも所有者が知っていなければ無効になる

※5下衆な行為が実行されたとき、誰かが死ぬ、または死を免れる事態を起こしてはならない。そのような書き込みは無効とされ、書き込んだ所有者には盥(たらい)……

※6所有者はいつでもこのノートの所有権を放棄できる

 盥ってなんだ?しかもその後に続く文はかすれて読めない。
 じっくり読んでみたが、要するに僕=所有者(実際は落とし主?)が書き込んだ下衆な妄想が現実になるということらしい。
 馬鹿らしい。僕は一旦そのノートを床に放り投げた。
 清廉潔白な人間というわけではないが、人を不幸にしたい願望は僕にはない。しかもひねくれているのは、その行為によって誰かを幸せにしなければならないということだ。
 5階の部屋の窓を開け放った。夕方とはいえまだ陽は明るい。少し寒いくらいの冷気が室内に侵入するが、かまわずそのままにした。冷ややかな風がカーテンを揺らす。

 僕がそのノートに書き込んで見る気になったのは、本当に現実のものになると信じていたからではなかった。記された条件を読んであることが気になったからだ。
 書き込んだ下衆な想像によって、その対象になる人物を不幸にすることが目的なのだろうか?
 これが本当に起こるとは思っていなかったが、これを書いた人物はなぜこんなややこしい条件をつけたのだろう。「これは誰かを幸せにするノートです」でいいではないか。そこをワンクッション置いて、誰かに下衆な行為をすることで間接的に誰かを幸せにする、そんなことは可能なのだろうか?

 思案しているうち、窓の外は暗くなった。僕は部屋の明かりをつけずそのまま考え続け、そして書き込むことにした。
 
 僕の住んでいる部屋から道を隔てた向こう側に、ここと似たような細長いマンションが建っている。ずいぶん老朽化しており、いつ取り壊されてもおかしくないほど外壁は罅割れている。住民は僕の知る限り、1階に一人暮らしのおばあさんと、5階の角の部屋に住んでいる若者だけだ。小さな町でもあったし、町内会長に年老いたおばあさんのことでなにかあったら助けてやって欲しい、と頼まれていたこともあり、そのおばあさんとは道で出会えば世間話するくらいの間柄だ。

 そのおばあさんがよくこんなことを話していた。いつも眠るのは夜十時を過ぎた頃なのだが、深夜になると5階の若者がコンビニに行くためにエレベータを使う。前述したとおり老朽化した建物に備えられたそのエレベータは速度も遅く、しかも稼動するたびに軋むような音を立てる。その音が毎晩決まった時間に2度鳴るため、眠りの浅いおばあさんは起きてしまうのだそうだ。若者は20そこそこだが、運動していないのかかなり太っている。不健康そうな白い顔にコンビニで買った鳥の唐揚げや焼きそばの入った袋片手にマンションへ入っていくのを僕も何度か見た事があった。
 「若い人だし、宵っ張りなのはわかるけれど、せめて階段を使ってくれないかしら……」
 注意することもできず、困っている様子のおばあさんのために、僕がそれほど面識のない若者に「夜は階段使いましょう」と言うのも変であるし、どうしたものか、と考えていたところだったのだ。

 よし、これをこの「ゲスノート」に書き込んでみよう、と思い至った。何も起こらないならそれはそれでよし、起こったならば、おばあさんは助かるわけで結果問題はない。あとは、どのような文章にすべきかだが……

 考えた末、僕はこうノートに書いた。

【**マンションのエレベータを夜間10時から朝5時まで停止することで○○(若者の名前)が階段を使ってヒイコラ言いながら苦労して上り下りする】

 ノートに書かれた条件の4によると、下衆な行為の影響を受けるものは苦労する者と幸福になる者以外に災禍が及ばないようにしなければならない、らしい。しかしあのマンションでエレベータを使うのはあの若者だけであるし、その点もOKだろう。

 
 さて、僕はどうなるのかまんじりともせずに夜の10時を待った。
 向かいのマンションの吹き通しになったエレベータホールの扉横には回数表示のランプがある。あのランプが10時になったら消える、なんてことは起きるのだろうか。
 
 動きは早い時間に起こった。マンションの前に白いワゴンが停まったのだ。サイドにはビルメンテナンス会社のものであることを示すレタリングがある。そこから作業服を着た男が降り立つと、エレベータホールと、5階に張り紙をして、そそくさと去っていった。僕は居ても立ってもいられずマンションへ駆けた。その張り紙は「老朽化につき22時~5時の間エレベータの使用を禁じます」と書かれていた。

 まさか、という思いと、本物だったのかという疑念を拭い去れないまま、手元の「ゲスノート」を見つめるのだった。
 しかし実際に現実のものとなった。あの貼紙の内容を若者が守るかどうかはどうだっていい。もし守らなかったら、そのことを注意することが出来るのだし、きちんとした使用禁止の大義名分は立っている。

 「ふう」
 僕は大きくため息をついた。
 これでおばあさんは安心して眠ることが出来るだろう。ほんのちいさな、小さな達成感を味わいながら、僕は次の願いをノートに書こうと思った。もうひとつ、確認したいことがあるのだ。

 【筆舌に語りがたい美女が僕に全裸を見せてくれる】

 コツ……

 頭に軽い物が落ちてきた感覚があった。これは?カップ?金属製だろうか?

「カッパ橋で買ったのよそれ」

 開け放ったままだった窓に透き通るような白い肌の女性が腰掛けていた。


つづく(のか?)







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by telomerettaggg | 2014-03-15 19:07 | summaron 35/3.5

キリンジ drifter



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ずっと書こうと思っている話がある。


 それをいつ出すべきか、躊躇っている自分がいる。それ自体に後ろめたい気持ちがあるわけではなく、さりとて自慢げに話せるものでもない。

 ただ、どうしても出せば気持ちは下落する。ならば、調子のいい今のうちに噴出するまま書くのがいいという気もする。どちらにしろ、そのことを思い出すだけで「鬱が夜更けに目覚めて、けだもののように襲いかか」ってくるのだから。
 一度深呼吸したらいつかは吐き出さねばならないように、溜め込んだ感情もどこかで抜かなければ、どうにかなってしまうだろう。

 
 それは、好きだった女の子の話。
 音楽の趣味が似通っていて、それほど可愛いわけではないけれど、どこか愛嬌のある顔立ちをした女の子のこと。

 破滅的なほどのタナトスを内に秘め、そのせいで心を病んでしまったその子のことが、とても好きだったことに気づいたのは、彼女と別れた後だった。

 別れた、と書いたが特に男女の付き合いがあったわけではない。というより、実際に会ったのは数えるほどしかない。肌を重ねたのは、初めて会ったその日だけで、その後数回の逢瀬はただドライブしながらたわいもない会話をしたり、カラオケに行ったくらいのものだった。

 感情を言語化するのはとてもやっかいだ。1と2の間の1.0269のようにデジタルで表現できるようなものではないからだ。そのときに感じた思いが好きだったのか、それとも悲しいなのか、どのあたりに位置するのかすら明確に書くことが出来ない。もうすでに十数年前のことのなのに。どうやら、これ以上のことをまだ書けそうにない。
 ただ、数少ない経験の中でも一番大好きだったとはっきりいえるのは彼女だけだし、別れを告げられた後で慟哭したのもその時が最初で最後だった。
 はっきり自覚できるほど人生の転換点をそこで迎え、鬱も最高潮に達したが、そのことで彼女を恨む気持ちなど全くない。

 今はもう出会う術もない女の子だが、また自分の前に姿を現したら、きっとまた好きになるだろうし、それが自己崩壊への道であっても迷わず一緒に堕ちる覚悟すらある。

 彼女が言った。
 「ムーンリバーを渡るようなステップで、っていい歌詞だよね」

 踏み越えていける相手は僕ではなかったけれど、彼女が好きだったその曲を聴くたびに、そのことを思い出す。そして、僕を通り過ぎていった彼女のささやかな幸せを願わずにはいられない。世界中の全ての人が平和に暮らせるよう祈るだけの器量を持ち合わせてはいないが、せめて出会った人の平安を望むくらいは、僕にも許されていいと思う。





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by telomerettaggg | 2014-03-04 03:37 | E PZ 16-50mm F3.5-5.

目の中の男

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私のまぶたの中には人が住んでいる。
そもそも、それが人なのか、生きているのかすら定かではない。飛蚊症にしては視界の隅をしきりと移動し、私に向かって何かを懸命に訴えているようにも思える。
はじめはそれが何なのかさえよくわからなかった。
街を歩いているとき、部屋でテレビを見ているとき、時折ちらりと何か黒い影がよぎるのを感じたのがきっかけだった。気のせいだと思ったし、ましてやそれが自分の目の中にいるなどとは考えもしなかった。
しかし、人の形をしたそれは、こちらが気を許した隙にふっと現れては、またすぐ消えてしまう。目薬を点しても治らない。眼球に傷がついたのでは、と医者にもかかったが、ほんの少し、水晶体が変形しているようですが、問題はありません、と冷静に告げられただけだった。
意を決して精神科の扉を叩こうかとも考えたのだが、やはり思いとどまった。目の中に人がいるように感じる、と相談してくる患者に対して下す判断は、どう好意的に判断しても、精神異常者だろう。
不意に現れるとはいえ、視界の、ほんの隅のほうに小さく出現するだけで、実生活に何の問題もない。そう自分を納得させて、普段通りの暮らしを続けた。
まぶたの中の黒服(と便宜的に呼ぶことにした)が居座るようになって数ヶ月経ち、こいつがどんなときに出現するのか、ある程度判るようになった。
一つ。夜間より日中、室内より屋外の方が出現率が圧倒的に高い。
一つ。右目と左目、どちらか片方にしか現れないし、私が向きを変えると、左右どちらかに黒服も移動する。
一つ。室内にいるとき出てくるのは、私がテレビや写真など、何かしらの映像を見ている時に限られる。
さて、彼は一体なにがしたいのだろうか。状況から考えるに、何かを訴えようとしているのは判る。判りたくはないし、このままこの状況を受け入れると本当に自分がおかしくなってしまったようで受け容れがたいのだが、事実はそう示唆しているように思えてならないのだから仕方がない。

 答えはある日唐突に訪れた。
 その日私はぶらりと旅に出かけた。視界の隅の黒服は、その日いつもより出現率が高いようだったが、たいして気にも留めていなかった。
 一人旅の場合、どこに向かうか、どこに足を留めるか、その場任せで決めることが多い。そのときも、全く何も考えず、大都市ながらそこには一度も行った事がなかったな、と思いつき、きまぐれで列車から降りた。
 改札を出ると、まだ16時をまわった頃なのに、地元球団を応援するグッズなどが並び、近くにはビールを売る呼び子の声が聞こえてくる。どうやら、すぐそばに球場があり、今日は試合があるらしい。観戦する気もなかった私は、駅前から出ている路面電車に乗ってみようか、などと考えていた。
 その時、視界の隅に黒服が現れた。注視すると消えてしまうので視線はまっすぐ向けたまま、ちらちらと映るそれを確認する。どうも、いつもと様子が変だ、と感じたのは、黒服の手がおいでおいで、と招いているように見えたからだ。普段の彼は、じっと視界の隅にたたずむだけで、動くようなことはなかった。
 私は我慢できなくなり、彼のいる左目の端へ視線を移動させてしまう。当然、黒服はいなくなる。ひょっとしたら、と思い、体の向きを反対にしてみる。すると、右目の端にやはり手招きしながら黒服が現れた。
 これはもう、彼の手招きする方向へ行ってみるしかない、と誘導されるがままに歩くことにした。横断歩道を渡り、黒服は右へ左へ、ふらふらと出現しては消えることを繰り返す。
 黒服をじっと見てはいけないし、路上の様子も確認しなくてはならない。何度も路地を曲がり、進むうちに、私は自分がどこをどう歩いているのか、全く見当がつかなくなってしまった。そしてふいに、黒服の姿は私の両のまぶたから消えていた。
 今いる場所が駅からそう遠く離れていないことは判った。線路を越えてはいないし、とおくのほうからは、うぉー、とどよめきが聞こえる。きっと野球の試合が始まったのだ。
 しかしここは、街の中心部にほど近いとは到底考えられないほど、ひと気がなかった。うらぶれた看板、営業しているかも定かではないネオン。ここだけは時が止まったようだ。

 背後に、誰かが立っているのを感じた。
 黒服の男だ。いやまさか。目の中にいた黒服は、あまりにも小さく、表情や体型までうかがうことは出来なかったが、目の前にいる男はずんぐりとした体型で、ご丁寧にシルクハットらしきものまで頭に乗せている。いかにも怪しそうな風体ではないか。そして私に向かって、こちらに来ませんか、とでも言うようにシルクハットを取り手招きしている。真ん中からきっちり分けた髪はべったりとつけたポマードで黒光りし、大きく歯を見せてニヤリと笑っている。
 男の背後には店の扉がある。私はそこに掲げられた店名を見て、すべてを理解した。そして、一目散にその場を離れた。

 どこをどう走ったのか、ハイヒールの脚ではこんなに走った経験があっただろうかというほどに疾駆した。気付くと、いつのまにか駅の前に出ていた。先ほどと変わらず人々の喧騒、行きかう雑踏のなかに身を置いて、私は安堵のため息をついた。
 あの、黒服の男、私には全く必要なかった。
 私には、埋めて欲しい心の隙間などないのだから。結局、街を観光することもなく列車に飛び乗った私は、ほんの少しだけ後悔することになる。黒服の男の話に耳を傾けなければいいだけなのだから、あの背後にあった店「BAR 魔の巣」に入ってみればよかったのだ。

 それ以来、視界の隅に黒服の男が現れることはない。
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by telomerettaggg | 2010-11-09 11:02 | RICOH caplio R5