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symbol of peace

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nagoya/aichi


 ノアの箱舟から放たれて、オリーブの枝を持ち帰った鳩は平和の象徴としてよく用いられているけれど、そこらじゅうを闊歩して集団で餌をついばむ様子を眺めていると、とても平和とは程遠い気がする。あの、無機質な目をじっと見つめていると、ちょっと薄ら寒くなってしまうのだ。なにを考えているのかわからないところがまた怖い。


 先日、ちょっとした所用で電車に乗る機会があった。
 普段、稀にしか利用しないし、あまり使ったことのない路線ということもあって、心の中で、「次は〇〇駅で乗り換え、乗り換え」と念じながら、いつものように本を読んでいた。
 「車内点検です」
 そう呼びかけながら通り過ぎる人影に気づいたので、顔を上げると、そこには足早に通り過ぎていく少年の後姿が。しかし、ほかに車内を歩く者は見当たらなかったので、先ほどの声の主は彼に間違いない。
 「いやいや、ジャージを穿いた駅員なんていないだろ」とつい口に出すと、隣にいた乗客も少し笑っていた。おそらく、鉄道が好きな少年なのだろう、という無言の納得で目配せを交わした。その数秒後に、今度は本物の駅員さんが車内点検のため通り過ぎた。彼の制服が偽者でないとしたら、ではあるけれども。

 しかし、先ほどの少年は、折り返してきたのか、今度は先頭車輌から、私の座る座席近くにやってくると「次は〇〇駅、〇〇駅、ドアは両側開きます」と車内アナウンスのマネをする。
 彼の告げた駅はわたしの乗換駅であったので、そうか、と思い降りる準備を仕掛けたところ、アナウンスされた駅名は全く違うものだった。少年は恥ずかしそうにするでもなく知らん顔を決め込んでいる。
 騙されちゃったよ。ほんの少しだけ悔しい気持ちを押し隠しながら、また本を取り出して読むふりをし続けた。とにかく件の少年が真向かいの座席に座って、駅が近づくたびに同じ駅名を連呼するので、気が散って仕方なかったのである。
 「この嘘つきめ」そういってやりたいところをぐっと我慢して、ようやく列車は乗換駅の手前までやってきた。
 車内アナウンスが流れる。
 「次は〇〇駅、〇〇駅、ドアは左右両側開きます」
 えっ、と思い少年の顔を見る。ドアに関しては本当のことを言っていたんだ。
 少年は、相変わらずそ知らぬ顔だった。


 箱舟の話に戻ろう。
 鳩が放たれる数日前、カラスも放たれていたことをご存知だろうか?
 しかし、大洪水の水はまだ引いていなかったので、カラスはどこにも降り立つことが出来ず、掴まる木の枝さえも見つけられず、箱舟に戻ってきてしまう。それが原因ではないと思うけれど、少なくともカラスには、平和の象徴といった意味合いはまったくない。単に放たれる時期が早すぎただけなのに。そんなカラスが私はちょっと好きだ。

 カラスにしてみれば、そんなことはどうでもいいのだろう。
 賢い彼らは、いつもそ知らぬ顔で、木の上から、電線の上から、私達を見下ろしている。

 電車の中の少年と、カラスの姿が、少しだけだぶって見えた。
 
 そんな少年もちょっとだけ、好きだ。
by telomerettaggg | 2008-03-07 18:23 | Nikkor50/f1.2 Ai-s